時価200万円、幻の「ちびまる子ちゃん」ゲームをやってみた

    激レアソフトの全クリ後に流れる、貴重なエンディングの全貌とは

    国民的漫画家さくらももこさんの早すぎる死は、ファンに大きな衝撃を与えた。代表作である『ちびまる子ちゃん』は、その圧倒的な知名度もあり、様々なゲーム機でソフトが発売されている。

    なかでも「幻のソフト」としてマニアの間で知られているのが、ネオジオの「ちびまる子ちゃん まる子デラックスクイズ」だ。市場にほとんど出回っておらず、過去には200万円で取引された例もある。

    BuzzFeedはこの激レアソフトの持ち主とコンタクトをとることに成功。一緒にプレイし、全面クリアに挑戦した。

    「200万円」翌日に売り切れ

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    「ちびまる子ちゃん まる子デラックスクイズ入荷しました!」

    7月9日、東京・秋葉原の「まんだらけコンプレックス」のツイートが、ゲームファンをざわつかせた。

    ところが、翌10日には早くも売り切れ。「まんだらけ」によると、販売価格は箱・説明書付きで200万円だったという。

    ファミ通.comによれば、1996年の発売当時の定価は税抜きで2万9800円。66倍以上に高騰したことになる。

    まんだらけの担当者は「アーケード版を家庭用に移植したもので、当時買っていた人が極端に少なかった。一度手に入れた人がなかなか手放さないことも大きい」と価格上昇の理由を分析する。

    7/10(月)【NEOGEO】ちびまる子ちゃん まる子デラックスクイズ売り切れました!ありがとうございました。#ちびまる子 #ネオジオ #SNK #SNKPLAYMORE #レトロゲーム #ネオジオミニ #NeoGeoMini #NeoGeo #まんだらけコンプレックス

    まる子とネオジオ、ファン層乖離?

    スマホ向けゲーム会社「ハッピーミール」の社長で、過去にネオジオソフトを開発していたこともある関純治さん(45)はこう指摘する。

    「ネオジオは『餓狼伝説』『ザ・キング・オブ・ファイターズ』『サムライスピリッツ』など、アーケードで人気の格闘ゲームを家庭でいくらでもプレイできるのが売りだった。ネオジオと『ちびまる子ちゃん』のファン層が噛み合っていなかったのでは」

    結果、ソフトの販売数もごく限られたものになったと推測される。とはいえ、ネオジオソフトのコンプリートを目指すなら、「まる子」は避けて通れない。

    高まるばかりのコレクション需要に対し、商品数が少なければプレミア化は必至。発売から7年後の2003年には、すでに10万円ほどで売買されていた。

    その後の急騰ぶりは冒頭で紹介した通りだ。ネット上には「コンバート品」と呼ばれるコピー商品も多く出回っているので、偽物をつかまされないように注意してほしい。

    激レアソフトの持ち主は…

    幻の激レアソフト、「まる子デラックスクイズ」。知れば知るほど、なんとかしてプレイしたい思いが募る。

    どこかに所有者はいないものか。そしてあわよくば、実際に遊ばせてもらえないものか…。すがる思いで関さんに相談すると、心当たりがあるという。

    数日後、関さんの紹介で、持ち主の男性に会えることになった。

    「どうも、どうも」

    ハッピーミールの一室に現れた男性は、人気番組「ゲームセンターCX」のツナギに、「餓狼伝説」のテリー・ボガードさながらの赤い帽子。胸には「GCCX(ゲームセンターCX)公認ニセ課長」の名札をつけている。

    (こ、この人はガチや…)

    男性は、会社員のタニンさん(46)。ご本人は「ただのおっさん」と謙遜するが、ファミコンソフトを箱付きで全種類コンプリートするなど、ゲーム愛好家の間では知られた存在だ。

    ずっしり重いROMカセット

    さっそく、「まる子」の現物を拝ませてもらおう。

    これが200万円のソフト…。貴重なソフトだけあって、手に取るとずっしり重い(気がする)。

    パッケージは、校庭に立つまる子の周囲をクラスメートたちが取り囲んでいるイラスト。ぶっ飛びすぎた内容ゆえか単行本未収録となった封印回、第98話「まる子 夢について考える」の「りぼん」掲載時の扉絵とまったく同じものだ。

    幻のソフトと幻の封印回、偶然の一致に数奇な因縁を感じる。

    プラスチックのケースを開けると、うやうやしいROMカセットがお目見えした。もちろん、説明書もしっかり同梱されている。

    まさかの値段で購入

    説明書の中身も快く見せてくれた。超高額ソフトだと思うと、ページをめくる手がプルプル震えてしまう。

    普通のコレクターなら「指紋がつくから!」と嫌がりそうなものだが、タニンさんにはまったくそんな素ぶりが見られない。

    てっきりジュラルミンのケースに白手袋、プチプチで梱包して…と厳重に保管しているものと思いきや、その辺のソフトを扱うのとさして変わらない自然体なのだ。

    この日も、タオルにくるみ、ビニール袋に入れて持参したという。さすがに無造作すぎるよ!

    「自分は安い値段で購入してますからね。200万円で買ったわけではないので」とタニンさん。

    聞けば、1998年か1999年ごろ、神奈川・溝の口の中古ショップで980円という破格で新古品を入手したそうだ。ケースには、当時の値札シールが貼られたままになっている。

    980円が200万円。実に2千倍の急上昇。投資に置き換えると、仮想通貨もびっくりのとんでもないハイリターンだ。

    意外すぎるキッカケ

    タニンさんが『ちびまる子ちゃん』を知ったキッカケは、意外なものだった。

    1990年ごろ、テレビのクイズ番組の予選に出場した際、「まる子のおじいちゃんの名前は?」という問題が出題された(答えは友蔵)。

    漫画読者やアニメ視聴者であれば難なく解けるサービス問題だが、漫画もアニメも一切見ていなかったタニンさんは、答えられず悔しい思いをする羽目になった。それから、アニメを見始めたのだという。

    「親みやすい内容で、共感できました。お腹が痛くなって、我慢しながら家に帰る話(単行本7巻「まるちゃん学校でお腹いたくなる」の巻)とか、自分にも心当たりがあったので。さくらさんが亡くなってしまったのは、非常に残念で悲しいです」

    初めてのプレイ

    前置きが長くなってしまった。いよいよ実際にプレイしてみよう。

    アニメならこの辺りで「後半へつづく」というキートン山田さんのナレーションが入るところだが、このまま続行する。

    タニンさん自身、購入した後プレイするのは初めて。ソフトをネオジオ本体に挿し込むのだが、画像や音声が乱れてうまく起動できない。

    何度か出し入れを繰り返すうち、ようやくオープニング画面が立ち上がった。

    さくらももこ作詞、大瀧詠一作曲、渡辺満里奈歌唱のアニメ第2期オープニング曲「うれしい予感」のBGMが流れるなか、「まる子デラックスクイズ、みんな遊ぼうよ!」という、まる子の掛け声が響く。

    あのころのアニメが思い起こされ、懐かしさで胸がいっぱいになる。

    プサディーに会えるか

    説明書には、ゲームのストーリーがこんな風に紹介されている。

    《ある日、ちびまる子ちゃんのもとに一通の手紙が届いた。なんと、テレビの有名なクイズ番組『デラックスクイズ』からの出場招待状だったのだ。しかも優勝すれば南の島へご招待!》

    「こりゃ、プサディーにまた会えるチャンスだよ。なにがなんでも優勝するっきゃないね〜」

    さぁ、おじいちゃんをライバルに迎え、3人チームでクイズに挑戦!! おなじみのちびまる子ちゃん達の家族や友達をひきつれて、目指すは夢の南の島!!》

    プサディーというのは、単行本6巻「まるちゃん南の島へ行く」の巻で、まる子が南の島へ旅行に行った際、友達になった女の子のこと。

    帰りの飛行機で「マるこ、ワスレ、ナイで プサディ」と書かれた手紙を読む名場面に、涙した読者も少なくないだろう。

    「このゲームもクイズ番組に出る話なんですね」

    予選とはいえクイズ番組に参加したことのあるタニンさんは、ゲームの設定に実体験を重ね、感慨深げな様子だ。

    ゲームのシステムは

    ゲームのシステムはいたってシンプル。「ノーマルクイズ」「バラエティクイズ」で構成された8つのステージを攻略すればクリアとなる。

    ノーマルクイズは通常の4択クイズ。

    「社会党の村山富市氏は、何というニックネーム知られている?」(→トンちゃん)

    「横綱、曙の出身国は?」(→アメリカ)

    「1966年6月来日した世界のビッグスターは?」(→ザ・ビートルズ)

    などなど、政治・社会・スポーツ・文化、あらゆるジャンルの問題が幅広く出題される。

    バラエティクイズは「観察力」「瞬発力」「想像力」など全8種類。知能や反射神経、記憶力を問われる、パズル要素の強いクイズだ。

    各ステージの合間には、失格になった回答者を復活させるためのミニゲームも用意されており、シューティングや迷路などを楽しめる。

    あっという間にゲームオーバー

    難易度は「やさしい」「ふつう」「MVS」「むずかしい」の4段階。「MVS」というのはアーケード版のことだ。今回は何としてもエンディングまでたどりつくべく、「やさしい」を選択した。

    1人プレイだと敗退した瞬間にゲームオーバーになってしまうが、2人プレイなら、たとえ一方が負けても、もう一方がゲームを続行できる。

    少しでも生き残りの確率を上げるため、2人協力プレイとし、1Pのまる子を筆者(神庭)と関さんの交代で受け持ち、2Pの友蔵をタニンさんに担当してもらった。

    「ドラマ『あすなろ白書』に出演していたSMAPのメンバーは?」(→木村拓哉)

    「平成7年現在の東京ディズニーランドの大人パスポートはいくら?」(→4800円)

    といった時代性を感じる問題の数々を、「懐かしい」「わかるか!」とワイワイ盛り上がりつつ解いていく。三人寄れば文殊の知恵だ。

    30分ほどかけて順調に勝ち進んでいったのだが、最終のステージ8でまさかの敗退。ゲームオーバーになってしまった。

    「未来」のテクノロジーを駆使

    こうなったら、手段を選んではいられない。

    Google検索で回答を調べあげ、記憶力勝負のバラエティクイズではスマホで画面を撮影してそれを見ながら答えるというズルにまで手を染めた。

    いずれも当時は存在しなかった、「未来」のテクノロジーである。ゲーム制作者たちもこんな不正は想定していなかっただろう。

    にもかかわらず、再びゲームオーバーの憂き目に。そもそも回答時間が短すぎて、検索しようにも間に合わないのだ。全クリするまで帰れま10状態。夜が深まり、一同に焦りが募る。

    重要なキャラ選び

    何とか攻略の糸口を掴みたい。目を皿のようにして説明書を読み返すと、セーブ機能があることが判明した。メモリーカードを挿入しておけば、ゲームオーバー時にデータをロードして続きから遊ぶことができるという。

    関さんが引っ張り出してきたメモリーカードをネオジオ本体に挿入し、再戦に備える。

    チーム構成も重要だということがわかった。実はそれぞれのキャラクターには、クイズを有利に進めるための特殊能力があるのだ。

    それまで無頓着に仲間キャラを選んでいたが、説明書を熟読した末、1Pは「まる子、ブー太郎、はまじ」、2Pは「友蔵、たまちゃん、みぎわさん」の組み合わせを選択した。

    ブー太郎とたまちゃんはステージごとの正解ノルマを2問減らす能力、はまじは4択を3択にする能力、みぎわさんは制限時間を延ばす能力を持っている。

    原作ではあまり見ない組み合わせだが、この際ぜいたくは言っていられない。能力を駆使して、ガンガン突き進んでいく。

    いまだかつて、こんなにもブー太郎とはまじを頼もしく感じたことがあっただろうか。

    因縁の問題に叫ぶ

    ノーマルクイズには、『ちびまる子ちゃん』にまつわる問題も多数出題される。

    途中、「友蔵は誰のこと?」という問題が出てきた時は、タニンさんと顔を見合わせ「おじいちゃん!」と叫んでしまった。

    クイズ番組の予選から30年近い時を経て、リベンジを果たしたタニンさんから思わず笑みがこぼれる。

    またしても第8ステージで破れてしまったが、今度は無事にセーブ機能が作動し、最終ステージからゲームを再開することができた。

    最後の関門

    開始から2時間半、ついに待ち焦がれた時がやってきた。エンディングだ。最終問題に正解し、安堵する私たちに、ゲーム内の司会者が無情な言葉を告げた。

    「優勝した、さくらさんには南の島へのチャンスゲームに挑戦していただきます」

    えっ!3人に動揺が走る。まだ終わりではなかったのか――。

    最後のチャンスゲームはA、B、C、3つの箱のなかから1つを選び、ハンマーで叩くというものだった。

    ここはシンプルにAを選択。ハンマーを振り下ろすと、箱から腰ミノをつけて踊る女性の人形が飛び出した。当たりだ!

    「おー!」「やったー!」

    会社の一室に、いい大人たちの歓声が響きわたる。

    そしてエンディングへ…

    「さくらさんチーム 見事、南の島行きを獲得しました」

    「わーい! やったね、おじいちゃん バンザーイ!」

    「おお、まる子 やったな! やったな!」

    喜びを確かめ合う、まる子と友蔵。ここからが本当のエンディングだ。

    「あたしゃ、とうとう会いに来れたよー!」。涙ながらにプサディーに駆け寄るまる子。プサディーも「マルコー!」と笑顔で出迎える。感動の再会である。

    ところが突如、画面が暗転する。

    「まる子、いつまで寝てるの! バカだねこの子は! 何度起こしても起きないんだから。もう飛行機の時間に間に合わないじゃない!」

    ゆ、夢オチだー! お母さん、そこはもう少し早く起こそうよ…。

    「あ…あたしゃ いったい何のために…」

    目の上におなじみのタテ線が入り、青ざめるまる子。そこに「ねぼうをして南の島に行けなくなったドジなまる子であった」とナレーションが入る。

    まる子らしい結末

    「でもまた、きっと会えるよね、プサディー」

    そんなモノローグとともに、浜辺に置かれたまる子とプサディーの2ショット写真が映し出される。「まるちゃん南の島へ行く」の最後のコマと同じものだ。寄せては返す波音が余韻を感じさせる。

    安易に感動で終わらせないところが、実に『ちびまる子ちゃん』らしい。原作愛の詰まったエンディングだ。

    少しすると、スタッフロールに切り替わった。

    「声の出演」の「お姉ちゃん」のところで水谷優子さんの名前が流れると、タニンさんが「亡くなってしまいましたね…」としみじみつぶやいた。

    ABCの箱を選ぶ場面で、もしBやCを選んでいたら、別のエンディングになったのだろうか。念のためその後に2回クリアし直したが、どの箱を選んでも結果は同じだった。どうやら「バッドエンド」というわけではないらしい。

    難易度を変えてクリアしたり、高得点でクリアしたりすれば、ひょっとするとエンディングも変わるかもしれない。しかし、今回は時間の制約でそこまで検証できなかった。手元にソフトがある人は、ぜひ試してみてほしい。

    関さんは「ほかのパターンもつくったけど、容量の問題で入らなかった可能性も考えられる。いずれにしても、今このソフトが日本で一番遊ばれている瞬間でしょうね」と笑う。

    取材の終わり、無粋を承知であえてタニンさんに聞いてみた。時価200万円の高額ソフト、売却するつもりはないのだろうか。

    「まったくないです。2本、3本持っていれば別ですけど、1本しかないので。手放せませんね」