息子のちんちん大丈夫? 「むきむき体操」とむきあう母親の不安と孤独

赤ちゃんのおちんちんって、どんな形か知っていますか?「包茎」を心配する母親に、父親がかける言葉とは。

「お母さん、熱よりコッチが大変! 紹介状を書くからすぐにこの病院に行って」

今は11歳の息子がまだ2歳のとき、私はかかりつけの小児科医に指摘された。

39度の熱を出した息子は、診察台で仰向けになり、睾丸が腫れていないか確認するためにおむつを下ろされたところだった。

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ちんちんを見ない「ダメ母」

「包茎」「亀頭包皮炎」「手術の可能性もある」……そう言われても、何がどう「正常」と違うのか、さっぱりわからなかった。

後日、紹介された病院の小児外科に行くと、待合ロビーの長椅子に、息子と同じくらいの年齢の男の子と、その母親とみられる女性が3組、すでに座っていた。

診察室に入り、息子を抱いて下半身を医師に見せる。

医師 「息子さんがおしっこをするとき、おちんちんは風船のように膨らみますか?」

「……わかりません」

息子はおむつをしている。おしっこをする瞬間を見る機会はほとんどない。それでも、罪悪感に襲われた。

(手術するかもしれない一大事だというのに、子どもの身体をちゃんと見ていなかった私はなんてダメな母親なんだろう)

「脱皮」するのではなかった

医師によると、皮があるせいでおちんちんの先に尿がたまると、細菌に感染しやすくなるという。風呂上がりに毎晩、できれば朝晩、皮をむくようにと指導された。

ここでまた、理解できなくなる。

おちんちんの皮をむく。小学5年生の時の記憶が蘇った。スポーツ万能でリーダー格の男子が、休み時間にそんな話をしていた。

「昨日も風呂でチンポの皮むいてみたんじゃけど、ぶち痛かったわー。ボロボロ取れて、風呂に浮きまくって。血も出たわ」

聞き役の男子は笑っていた。聞き耳を立てていた私は、身の毛がよだった。

魚肉ソーセージのパッケージを剥がすのに失敗して、オレンジ色のセロファンがピラピラ落ちる。ちんちんもそうやって脱皮して大きくなるものなのか?

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血が出ても構わない

20年後、診察室。医師の説明によって、そのボロボロは皮ではなく、包皮の下にたまった垢(恥垢、すごい名前だ)だということ、皮をむくというのは「剝ぎ取る」のではなく「ずり下げる」ことだと私は初めて知るのだが、強烈なイメージはなかなか頭から離れなかった。

少量のステロイドが入った「リンデロンVG」という軟膏を処方された。これを塗りながら包皮を下にずらし、亀頭を露出させる。亀頭と包皮が癒着している部分を、1週間に1ミリを目標に、少しずつ剥がし進めていくのだ。

医師によると、出血しても続けて構わない。ずらした包皮は元に戻さないと、皮で亀頭部が締め付けられ、亀頭が腫れて「嵌頓(かんとん)包茎」になる恐れがある。そして、むくのをやめると元に戻ってしまうのだという。

怖い、怖すぎる。でも、私がやるしかない。

当時、夫は単身赴任をしていた。電話で相談すると、

「放っとけばいい」「いずれむけるよ」

と、話が続かない。息子が自然にむけなかったら、どう責任をとってくれるというのだろう。

ちんちんとの格闘がはじまった

結論からいうと、格闘はすぐにやめた。1カ月間ほど風呂上がりにやってみたが、息子が号泣したからだ。

毎晩、2人きりの部屋で、フローリングに寝かせたわが子のちんちんを親指と人差し指で挟み、皮をずり下げては戻すのを繰り返す。泣き声が響く。血がにじんだこともあった。

そこまでしてやる必要があるのか、と悩んで調べたところ、「包皮翻転指導」と呼ばれるこの方法は、小児科医や泌尿器科医ら専門家の間で、必要性について意見がわかれていることを知った。

だが実際は、育児雑誌やネットで知った情報を元に、自己流でやっている母親たちが少なくない。

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歯科勤務の女性(30)は、妊娠中に育児雑誌で赤ちゃんのおちんちんの問題を知った。ネットで調べた方法で、長男(5カ月)が新生児の時から、沐浴やおむつ替えの時に皮を引っ張って上下している。夫はおむつを替える機会がほとんどないうえ、「少し恥ずかしいのか」関わりたがらない。

「垢がたまったり不潔になったりしないように気をつけています。将来、包茎にならないかと心配です」

病院を受診しなくても、家庭で「包皮翻転」をする方法を説明し、「むきむき体操」と名付けたのが、泌尿器科医の岩室紳也さんだ。

無理にやらなくていい

1990年に「むきむき体操」を提唱した理由は、亀頭包皮炎や、それによる包茎手術を減らしたかったからだという。3歳ごろになると手で触るなどして細菌に接触しやすくなるうえ、痛みがあるとトラウマになる恐れがあるため、「むくとしたら乳児のうちに」と岩室さんは訴えている。

一方で、「無理にやる必要はない」とも話す。

「子どもはみんな包茎です。清潔に保つためには、むけていたり、むいて洗ってあげたりしたほうがよいですが、自然にむける人、炎症を起こさない人もいるので、必ずむきなさいというものではありません」

問題なのは、病気予防や衛生の面で指導されているはずの「むきむき体操」が、「やらなければ子どもが将来、包茎の悩みを抱えてしまうのではないか」という壮大な危機感に変換されて、母親の育児不安につながっていることだ。

取材した母親の中には、「宿泊研修で一人だけむけてなくていじめられたらどうしよう」「彼女ができた時に呆れられたら困る」と10年後、20年後を心配している人がおり、私も例外ではなかった。

「息子は将来、むいてあげた私に感謝するはず」「包茎手術は医療費助成がある年齢のうちにやらせておきたい」と話す母親もいた。

岩室さんが診察する神奈川県の厚木市立病院の泌尿器科に息子を連れてくる保護者は「圧倒的に母親が多い」。ママ友の紹介などだという。病気や衛生の面だけでなく、「真性ですか、仮性ですか?」と見た目を気にする傾向があるという。

そこに、父親の姿はほとんどない

一方、父親は「放っておいたらいい」と楽観していることが多いという。その根拠は「気がついたらむけていた」という自身の体験だ。どういうことなのか、女性にもわかるように岩室さんに説明してもらった。

「無意識にちんちんを触ったり、友達に教わってむいてみたり、オナニーしたりしているうちに、むけたのでしょう。息子のちんちんも自然にそうなるだろうと思っているけど、他人のものの触り方はわからない。母親より知っていなければならないはずのものを知らない後ろめたさや、オナニーの告白しづらさから、父親は黙ってしまうんです」

父親はどう考えているのか。

放送作家の鈴木おさむさんは2016年4月のブログで、1歳2カ月の息子に「むきむき体操」をしているという読者からのコメントに、こう答えている。

妻からも、笑福(長男)のムキムキ体操的なものをやってほしいと頼まれているのですが、正直、怖い。

これ、息子を持つパパと話したことあるのですが、男性はみんな「怖い」と言う。

女性とギャップがあるみたい。

1歳9カ月の男の子の父親で、「育休男子.jp」を運営する高橋俊晃さん(34)も、「怖い、できない」と言う。

高橋さんは育児休業中、長男の生後8カ月健診で、「皮が余っているところをむいてしっかり洗うように」と小児科医に指導された。

「試しにやってみると、なんだか自分が『イテテテテ!』となるようで、尻込みしてしまうんです」

「大丈夫」だけでは安心できない

自身は小学生の頃、母親に連れられて病院で下半身を診察された記憶がうっすらあるくらいで、トラブルの経験はない。高橋さんは「そんなに気にしなくていい」というスタンスで、妻にも伝えている。性についても育児についても、妻とよく話をするという。

「子どもの性にまつわる問題は、『きっと将来こんなことで悩むだろう』ということはわかっても、これは重大な問題、これはすぐ解決するもの、といった判断が、異性だとつかない。経験がないからです」

男の子が包茎について悩むことは想像できても、自ら悩んだ経験がない母親には、息子がどう乗り越えていくのかがわからない。だから先回りして不安材料を取り除こうとしてしまう。

高橋さんは、夫婦間のコミュニケーションでのこんな工夫を提案する。

「余裕がある人(経験があり大丈夫だと思っている人)がいくら大丈夫だと言っても、余裕がない人(経験がなく不安な人)は安心しない。余裕がある人は、問題を軽く扱うのではなく、余裕がない人の不安に寄り添ってみては」

それぞれの夫婦の関係性によって、コミュニケーションのやり方は違う。性についてあまり話さないことでうまくいく夫婦や、過去の性体験の話が地雷になる夫婦もいるだろう。ただ、「話ができなくて苦しむくらいなら、話したほうがいいですよね」と高橋さんは言う。

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私は岩室さんや高橋さんと話していて、感じたことがある。仕事という名目で、他人となら性の深い話ができるのに、なぜパートナーとはしづらいのだろうか。もっと前からおちんちんについて知識があり、「脱皮」の誤解をしていなかったら、私はひとりで格闘していただろうか。

「むきむき体操」でネットを検索すると、大量の情報がヒットする。不安にかられて夜な夜な情報を集めている母親が、一体どれほどいるのだろう。

息子のおちんちんと向き合っている母親にこそ、向き合う人が必要ではないだろうか。


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