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技術はおじさんだけのものじゃない。”かわいい”をつくる「ものづくり系女子」がめざす道

フェミニン・フェミニズムのすすめ。

「どうせつくるなら、かわいいものがいいじゃないですか」

ラメ、ネイル、漆塗り、ベルベットのようなフロック加工......。

女の子が思わず手に取りたくなるような色や手触り。10種類の表面加工を、3Dプリンターで造形したリボンの型に施している。

アクセサリーのようだが、これは素材と表面加工の組み合わせをテストする「試験見本」だ。型はリボンのほかに丸襟ワンピース型もあり、それぞれ素材も10種類。つまり素材と表面加工の組み合わせが100通りある。

「3Dプリントの見本というと、強度や透明度を確認するためだけの、すごく味気ない『試験片』ばかりでした。そういうものをずっと触っていた反動かもしれないけど、わざわざお金をかけてつくるなら、それ自体がかわいいほうがいいじゃないですか」

そう熱く語る神田沙織さん(32)は「日本で一番、3Dプリンターに詳しい女子」だ。この見本は、総務省の2015年度「異能vation」プログラムの審査に通り、つくったもの。ICT分野で独創的なアイデアと実現可能な技術をもつ人材を支援するというプログラムだ。

自ら「ものづくり系女子」と名乗り、とことん「かわいさ」を追求する神田さんの、技術とアイデアの真骨頂というべき挑戦だった。

星やハートを入れてみたら?

会社員だった頃の5年間、3Dプリンターの法人向け営業や個人向けサービスの立ち上げに携わり、3Dプリントの最先端の世界にどっぷり浸かっていた。

でも、そんな女の子は自分だけ。周りは男性の熟練技術者ばかりで、「この試験片の透明度がー」などと一部の人にだけしかわからない話をしていた。

「ここに星とかハートとか入れちゃダメですかね? なんて、営業の下っ端のくせに上司に言ったりしていました。せっかくものをつくる技術があるんだから、もの自体に魅力や価値を付加するようなものづくりができないのかな、って」

3Dプリンターの普及にはほど遠い、と感じていた。

「おじさんがこれ以上おもしろいことを思いつかないなら、女の子がやればいいんじゃない?」

こんな視点からプレゼンし、総務省の「異能vation」の選考を通過した。試作した試験見本はもちろん、かわいいだけではない。技術の真髄も詰まっている。

例えば、ワンピース型の標本のほう。普通のフィギュアだと袖の中にまで樹脂が詰まっていたり、スカートの微妙なひだは再現できなかったりするが、3Dプリントだと形の制約がなく、デザインが自由に具現化できる。

男性デザイナーには、手持ちのワンピースの写真や「ドラえもん」のしずかちゃんの画像を送り、「丸襟はこういう感じ」「このくらいの5頭身で」と細かく注文した。貪欲にかわいさを追求するのに加え、「技術的にここまでならできる」という確信がなければ、ものづくりは成功しない。

「かわいいものを、かっこいい技術でつくる。かっこいい技術を知っていたら、もっとかわいいものをつくることができる。私の中で筋が通っているテーマのひとつです」

「鋼鉄の天井」を知る

神田さんは大分県佐伯市で生まれ育った。製造業の父親のもと、寸法はミリ単位で測り、週末は工業団地にドライブに連れて行ってもらうような子ども時代。家事は主に母親がしていたが、男女の役割分担や女性の生きづらさを意識するようなことはなかった。

中学や高校に進むと、疑問に思うことが出てきた。母親が持っていた田嶋陽子さんの女性学の本を読んだ時期とも重なる。

「なぜだかわからないけど、学級委員長や部長は男の子で、女の私は”副”がつく役職ばかり。おや、ガラスどころではなく鋼鉄の天井があるのかもしれないぞ、と感じるようになりました」

大学受験をし、日本女子大学の家政学部へ。1901年、日本で初めて誕生した組織的な女子高等教育機関というだけあり、ほとんどが女性教員で、「女性労働論」などの授業を受けた。

「自分なりに不自由さを感じていたけれども、ここまで来るのにも100年以上かかり、多くのOGが亡くなってしまったという歴史の重みを感じずにはいられませんでした。就職相談では先輩たちから、この先の苦労はこんなもんじゃないよ、と聞かされてきましたし」

これこそが私の「かわいい」だ

女性であることの不自由さを意識しながらも、おしゃれを最大限に楽しんでもいた。

ファストファッションがまだ台頭しておらず、女子大生たちは洋服にお金をかけていた。神田さんも毎週、伊勢丹のお気に入りの店に通いつめた。

新商品があれば、店に入った瞬間にピンときた。あの服のあの色が売れてしまった、ということまでも。店員が入荷表を手に「お持ちのコートと少し違いますが、今年のラインもかわいいですよ」と買う前提で話しかけてくるくらい、常連だった。

「こっちの色のほうがいいとか、あとちょっとだけこういう感じのデザインならいいのにとか。ただお金を使っていただけですが、あの時期にとことんこだわったことで、これこそが自分が思うかわいいものなんだと言い切ることができるようになったんです」

私はフェミニストです

この感性は、イメージを形にするために言葉を尽くすときに役に立っている。会社員をやめてフリーランスになり、起業した神田さんは今、複数の肩書きをもつ。

株式会社wipの取締役、ものづくり系女子(FabGirl)リーダー、1歳の男の子の母親、そして、フェミニストだと名乗っている。

ビジネスにおいて思想を表明するのは得策なのかという問いに、きっぱりと「オープンにすることに意味があるはずです」と話す。

「いま自分がある状態を説明するときに、フェミニストと言うのに抵抗はまったくありません。スタンスを表明しないほうが不自然かな、と思うくらい」

仕事で使っている「SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)」で活動するクリエーターのコミュニティ「Cift」では、若手起業家たちがゆるくつながりながら「平和活動」を大きなテーマに掲げているのだという。

「20年ほど前なら、平和や環境の活動家というとどこか過激なイメージがあったと思うんです。でも、だんだんエコがクールでカッコイイことになってきて、レオナルド・ディカプリオがプリウスに乗って......みたいなところまで来て、ロハスやオーガニック、ボタニカルがトレンドになって。言葉がもつイメージは変わるものだし、誰かがつくっていくものなんですよね」

「『ものづくり系女子』と名乗ったとき、『ものづくり』と『女子』という対極とみられる言葉をくっつけることで、相互作用を期待したんです。かっこいいものづくりをする女子がいるのかなと思う人もいれば、女性的でかわいいものづくりの可能性があるのかなと思う人もいそう。そのうち、それぞれの言葉のイメージが作用し合って新しいイメージができあがるんじゃないかと」

フェミニストという言葉がもつ既存のイメージにとらわれず、自分が発信することで、自分の印象を付加した「フェミニスト」のイメージを、相手にもってもらうことができる、と考えている。

「フェミニストという言葉のイメージと、私という人間のパーソナリティーが一緒になることで、新しい側面や色が出てくるかもしれません。こんな普通の子もフェミニストだって普通に言っちゃってるんだね。神田沙織さんの場合はこんな感じだったね、という一例になれたらと思います」

かわいいとフェミニズムは対立しない

本人が言うように、神田さんが「私はフェミニストです」と表明すると、多くの人は驚くのが現状だろう。フェミニストのイメージーーエマ・ワトソンが国連のスピーチで語っているが、過激で、攻撃的で、男性を嫌悪する、怒っている女性ーーが強く根付いてしまっているからだ。

「肩パットの入ったスーツ、ノーメイク、ノーブラなど、いろいろな主義があるのだとしたら、私の場合は、パフスリーブで白い丸襟のワンピースを着て声を上げたい。自分が選んだ好きな装いをすることこそ、誰にも抑圧されない、不自由にならないという、フェミニズムが目指す権利だからです」

総務省のプロジェクトで総務大臣を表敬訪問したとき、神田さんは、ポンポンが載っているベレー帽をかぶっていった。個性のないスーツばかりが正解ではない。かわいいものを追求している自分にとって、おしゃれで自分らしい格好をしていくことが最大の敬意であり、正装だからだ。

「フェミニストという言葉に抵抗がある人がいるという前提も、もう気にしなくていいのかもしれません。田嶋陽子さんを知らず、エマ・ワトソンからフェミニストを知る若い子もいるでしょうし。アンチ・フェミニストの人とも、そう表明してくれたらお互いに話せますよね。そういう意味でも私は、フェミニストだと自分からオープンにしていきます」

かわいさとフェミニズムの両立。対話する姿勢。以前、働いていたセレクトショップ「Lamp harajuku」で、バイヤー矢野悦子さんが提唱した「フェミニン・フェミニズム」という言葉に感銘を受けた。「フェミニン」と「フェミニズム」は本来なら対立しないの言葉なのだから、相互作用でイメージを進化させることはできるはず、と信じている。

かわいいと思うものを身につけ、好きなものを好きと言い、やりたいことを実現させる。誰もが堂々とそう振る舞えるように。

「ものづくり系女子の活動を通して実感しましたが、肩書きを表明して体を張って出ていくと、変化を起こせるんですよ」。ふんわり広がるスカートをまとった神田さんは、なんだか楽しそうにそう話していた。

BuzzFeed Newsでは、エマ・ワトソンの国連でのスピーチの全文を掲載しているほか、フェミニズムの定義についても記事にしています。


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