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女性には「天井」だけでなく「ガラスの床」がある。

働く女性のロールモデルって何だろう。女同士で対立や牽制をしていても、つらいだけ。大事なことは変わらない。

最近けっこう増えている。結婚して子どもがいて、ガシガシ仕事をしている女性。私もその一人だ。

子どもは10歳と4歳、夫は単身赴任中で、実家は遠方のため、午後6時に帰っていますが管理職をしています。

自己紹介をすると、それだけで「すごい!」と言われる。相手が同じように子育てしながら働いている女性の場合、

「私なんて実家に頼っているから......」

などと恐縮される。仕事と子育ての両立がつらいという悩みは、恵まれた環境にいる人ほど口にしづらい。なぜなら、もっと弱い立場の女性がいるからだ。

雪だるま式に価値が増える

私は2005年から約10年間、週刊誌で、女性の生き方についての記事を多く執筆してきた。

独身女性をテーマにした負け犬の遠吠えがベストセラーになった数年後、2008年ごろには一転して「婚活」が盛り上がった。2013年ごろ「ワーキングマザー(ワーママ)」という言葉が浸透。2016年4月、女性管理職の登用などをめざす女性活躍推進法が施行された。

ここ10年ほどで、女性たちが重視する価値は、「仕事」→「仕事と結婚」→「仕事と結婚と子育て」と雪だるま式に増えてきた。

「ロールモデル」に冷ややか

メディアでは、ワーキングマザーの仕事やライフスタイルに密着する記事が増えはじめた。いわゆる「ロールモデル」の紹介だ。

私も何度か、週刊誌の企画に登場してくれるロールモデルを探した。その人選のさじ加減が、実はすごく難しい。

雑誌で取り上げるからには、知名度がある人、タイムマネジメントがうまい人、おもしろい商品を開発している人、子ども4人を育てている人など、どこかが「特別」な人を探す。が、読者の反応は冷ややかだ。

「これは特別に恵まれた人の話だ。私の参考にはならない。普通のワーキングマザーの話が読みたい」

「そこまでして働きたくない」

保育園の迎えを実家の親に頼って残業したり、子どもを預けて海外出張したりする「バリキャリ」のロールモデルが登場すると、風当たりが強まる。→「子育てをおろそかにしてまで働きたくない」。

もっと嫌われるのは、仕事も家事も育児も努力している「完璧」なロールモデルだ。朝4時に起きて仕事をこなし、家族の弁当まで作るようなタイプ。→「そこまでしてボロボロになってまで働きたくない」。

働く女性のロールモデルを提示するたび「あんなふうにはなりたくない」と反発される。

多くの女性が共感する「普通」、それよりちょっと上の「あんなふうになりたい」というロールモデルがどんな人なのか、私にはわからなかった。

「ガラスの床」にぶつかる

いわゆる「バリキャリ」として出産後も仕事を続ける女性たちは、現状、政府が進める女性活躍推進の「2020年30%」にもっとも近いところにいる。2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%程度にするという目標だ。

東京・霞が関のある省庁の男性官僚は、女性活躍推進に関する政策の説明をするとき、政治家に進言した。

「女性は『ガラスの天井』にぶち当たっているといわれていますが、『ガラスの床』もあるんです。すべての女性が成功を目指しているわけではない。むしろ成功を目指している女性は、同じ女性から嫌われてしまうんです」

女性管理職を増やす取り組みは一部のバリキャリ女性を対象にしているにすぎない。それ以外の大多数の女性にも目を向けてほしい、という趣旨で伝えたのだと彼はいう。

管理職になりたいかどうか

「ガラスの天井」とは、女性の昇進が表向きには門戸が開かれているようでも、実際は見えない壁に阻まれていることを指す。天井の上にいるのは、男性だ。

一方、この男性官僚がいう「ガラスの床」は、女性同士のキャリア観の違いによる、見えない分断線を指す。床の下にいるのは、女性だ。

働く女性は、ライフイベントとの兼ね合いで、さまざまな選択に直面する。

総合職にするか、転勤のない一般職にするのか。

派遣社員やフリーランスのほうが、育児との両立はしやすいのだろうか。正社員なら、子どもが小さいうちは短時間勤務にするか、フルタイムを続けるか。

育児休業はどのくらいの期間にするか。いやその前に、何歳で産むかも考えなければならない。

子どもが病気になったら会社を休むか、それとも病児保育に預けて出社しようか。そこを乗り切るのは大変そうだけど、管理職を目指すべきなのかーー。

ひとつひとつ選択するごとに、こちら側の女性とあちら側の女性の間に、見えない壁が生まれる。

壁の存在自体はよく語られてきたが、多くは未婚か既婚か、子どもがいるかいないか、仕事をするか専業主婦かといった、いわばプライベートな理由による、横並びの分断だった。

子育てしながら働く女性が増えたことで、ここにキャリアという縦の軸が加わった。例えば、子どもが2人いるという同じ横軸にいても、管理職を目指す人と、午後5時に退社する人とでは、縦軸の同じ位置には並ばない。キャリアという縦軸の差で上下に分かれるところに「ガラスの床」が生まれる。

2:6:2の法則

しかも「ガラスの床」は、重層階をつくる。

経済産業省の経済社会政策室長だった坂本里和さんは2013年、経産省監修の『ホワイト企業』で、女性の「2:6:2の法則」を紹介している。

最近の若い女性をタイプ分けすると、2割くらいが「バリキャリ派」(どんな環境でもたくましく生き抜いていくタイプ)、6割くらいが「ほどほど派」、そして、残りの2割くらいが「ゆるキャリ派」(専業主婦志望の方も含まれます)と言われています。要するに、過半数の女性は、環境次第、上司次第で「バリキャリ」にもなるし「ゆるキャリ」にもなるということなのです(後略)

2割の「バリキャリ」と「ゆるキャリ」の間にいるのが、「ほどほど」。6割の「ほどほど」は「バリ」に上がろうとせず、「ゆる」に流れがちだ、と指摘している。

なぜか。

現状では「バリキャリ」に要求されるのは、男性と同じように長時間労働をいとわない働き方。実家のサポートなど環境が整っていたり、家事の外注ができるくらい経済的に潤っていたりしていなければ、その働き方は難しい。

なのに、家事や育児を人任せにすると、「ほどほど」や「ゆるキャリ」の女性から「両立している」とは認めてもらえない。

自分は環境に恵まれているのに、つらいと言ってはいけないのではないか。家事や育児ができていないのは、母親失格ではないか。

こうしてバリキャリ女性は、弱音を吐けずに口を閉ざす。もしくは「ゆる」のほうに流れたり、仕事を辞めたりする。

ジャーナリストで研究者の中野円佳さんは2014年、著書『「育休世代」のジレンマ』で、バリキャリ女性であっても出産後に仕事を辞める背景を分析した。

仕事と育児の両立に苦しんでいるにも関わらず、彼女たちは「贅沢な悩みだから」と沈黙し、意欲を低下させていく。女性同士の対立に矮小化され、全体の利益を追求できない。その結果、男性中心主義な組織文化が変わっていかないーー。

わかりづらい分断

ある大企業に勤めている女性(32)の職場では、女性社員が有志で集まってダイバーシティ関連の提案をまとめ、会社に提出する準備を進めていた。いざ上司に出そうというとき。その動きを別の上司に密告し、提案を潰した社員がいた。

子育てしながら働いている女性社員だった。

牽制しあう女性たち。天井の上から高みの見物をしているのは、男性たちだ。

いや、実は男性はわからないのかもしれない。同じように仕事と育児を両立しているように見える女性たちが、細かく分断してしまう理由が。

自由に行き来したい

中野さんはBuzzFeed Newsの取材に「子育てしながら働く女性が増えたとはいえ、職場ではまだ少数派だからこそ、起きている問題です」と話す。

女性同士、ワーキングマザー同士であっても、意識や利害は当然、多様だ。ただ現状では数が少ないため、ひとくくりにされ、比べられる。

育休から早く戻ってきたほうが「出産後もやる気がある」とみなされる。時短勤務を使わないほうが「仕事を頼みやすい」と評価される傾向がある。だから互いに不毛な牽制をしあう。

これは、メディアが「特別」なロールモデルばかりを伝えてきたせいでもある。勝手にゴールを決められて高みを目指せといわれても、それはやりたいこととは違うのだ。

「ガラスの床」が、なくなることはないだろう。ただ、分断ではなくグラデーションになればいい。力を合わせて成果を積み上げたり、上下の階を行ったり来たりしたり。そのときにいちばん心地いい働き方を、自由に選べるようになるといいのに。

結局、私が必死に探していた「普通」のロールモデルなんて、どこにもいなかったのだ。


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