ネットの悪評「消してほしい」アフィ業者と「消さない」Google 裁判始まる

    ググった結果は「名誉毀損」にあたるのか

    アフィリエイト業者 vs Google

    「アフィリエイト広告で稼ぐための教材」を扱う都内の会社が、Googleの検索結果から悪評判を削除するよう求める裁判を起こした。Googleは10月7日、東京地裁で開いた第1回口頭弁論で全面的に争う姿勢を示した。

    『○○円の収入が得られる方法』『簡単に稼げる』。ネットのあちこちで目にする、アフィリエイトのノウハウを教える情報商材。それを販売する業者の悪評は、ネット検索から削除されるべきなのか。

    業者側の主張「検索結果で、名誉が傷ついた」

    訴状によると、この会社は株式会社「Sekinet」(以下、セキネット)。社名や、代表の関根義光氏(26)の名前を検索すると、「詐欺」や「騙された」といった言葉を含む検索結果が表示される。

    それによって「企業の社会的評価が下がる」。だから、Googleは検索結果の表示を削除すべきだ、というのが業者側の主張だ。

    業者「自分たちは広告を手伝った」

    社会的な評価を下げるような表現でも、その情報が真実で、公益性などがあれば、表現の自由の範囲内で違法にはならない。

    業者側は検索表示の中に「ウソ」が混じっているので、違法になると主張している。

    何がウソに当たるのか。

    代理人を務める神田知宏弁護士は、BuzzFeed Newsの取材に対して、「広告代理店が商品を売っているわけではない」と語った。

    つまり、「販売しているのではない、広告宣伝をしているだけだ」というのがセキネット側の主張だ。

    Googleの反論「名誉毀損にはあたらない」

    一方、Googleは、大まかに次の2点のような反論をした。

    「検索結果の表示には問題がなく、名誉毀損には当たらない」

    「知る権利への影響が大きいので、検索結果の削除は、一見して明白に違法なケースに限るべきだ。今回は当てはまらない」

    「検索結果は、セキネットが詐欺商材を販売し、詐欺行為をしていると受け止められるので、社会的評価が下がる」という主張に対する、Google側の反論はこうだ。

    • 検索結果は単語が並んでいるだけ。普通の人が「会社名 詐欺」という表示を見ても、それだけでセキネットが詐欺をしているとは受け止めない。
    • セキネットは自ら、情報商材の広告宣伝を行っている、と認めている。情報商材の「販売」をしているか、「広告宣伝」をしているかの違いしかなく、社会的評価には影響がない。
    • 仮に社会的評価が下がったとしても、表示の重要部分は間違っていないし、みんなの利益にもなる。つまり、公共性と公益性、真実性・真実相当性があるので、名誉毀損にはあたらない。

    Google、最大の切り札

    なぜ、間違っていないと言えるのか。Googleは、セキネットについての相談が、国民生活センターに2006年〜2016年で25件も寄せられていると、明らかにした。

    例えばこんな相談だ。「1日3分スマホを弄るだけで月収40●万円」などという広告を信じたが、実際には稼げなかった。覚えのない情報商材の代金を支払わされた。返金保証と書いてあったのに、返金してもらえなかった・・・。

    Googleは主張する。「原告(※セキネット)の行為は、まさに他人を欺く行為であり、詐欺ないし詐欺まがいの行為に該当する」

    訴訟当事者は語る

    セキネット代表の関根氏は東京地裁前で、BuzzFeed Newsの取材に応じた。以下、一問一答で掲載する。

    ーーなぜGoogleを訴えたのか?

    「匿名の書き込みによる悪評が多く、個別に対応するのが難しかったからです。検索結果に表示されると、会社経営に支障をきたすので裁判を起こしました」

    ーー業務の内容は?

    「うちはインターネットの広告代理店なので、広告のお手伝いをしただけ。アクセスを集めることをしただけです」

    ーー扱っていたのは、どのような商品?

    「お金を払うと動画が見られるようなタイプの、ネット上のデジタルコンテンツです。ネット広告で、副業的に稼げる手法を教えていた。アフィリエイトの塾の教材です」

    ーー自社商品はなかったのか。

    「塾の教材など自社の商品もありましたが、それは全体からすれば1割未満という感覚です。9割以上は他社の商品だったと思います」

    Googleのコメント

    Googleは第1回口頭弁論終了後、コメントを出した。

    「本件は、情報商材を取り扱う事業者のレビューや口コミ等に関する検索結果の削除を求めた案件で、本訴に伴い行った調査では、国民生活センターに、原告の事業者に対して複数の苦情が寄せられていることが判明しています。Google では人々の知る権利に貢献するという観点から、引き続き裁判で争います」

    急速に社会問題化している「情報商材」

    BuzzFeed Newsの取材に対し、国民生活センターは、センターに寄せられた情報商材に関する相談件数を公開した。

    2007年度に3件だった相談件数は2010年度以降、急激に増加している。15年度は、これまで最多の303件。請求金額は次第に高額化し、15年度は1件につき平均で約45万円に達している。

    「スマホが普及して、インターネット上で『必ず儲かる』『楽にできる』といった広告に触れる機会も多くなりました。そこで高額な契約を結ぶ事例があります」(国民生活センター・相談情報部)

    この裁判が問うもの

    Googleは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命として掲げている。だからこそ、日々、検索アルゴリズムを進化させ、削除要求に対しても、今回のように正面から争う。

    一方で、いわれなき中傷がGoogleの検索結果に出続ける、という深刻な人権侵害も起きている。

    何かを調べる時、「ググる」ことが常識となった現代において、検索結果には何が表示されるべきで、何が表示されるべきではないのか。すべてのインターネットユーザーに関わる重要な問題だ。