シリアでの戦いは、アメリカ同士の代理戦争になっている

    オバマ政権によるシリア政策の混乱は現場にまでおよび、アメリカが支援するグループ同士の戦いが始まっている。

    アメリカのシリアでの戦いは、いまや自国どうしの代理戦争になっている。

    アメリカ政府から密かに支援を受けているシリアの反政府勢力の関係者は、最近になって、彼らが闘っている敵の反政府勢力も別のアメリカ政府機関の支援を受けていることを知ったと、BuzzFeed Newsに語った。

    アメリカが支援する反政府軍Furqa al-Sultan Muradの司令官、アハメド・オスマンは「本当におかしなことで、理解できない」と言う。彼らは今週アレッポにて、アメリカが支援するクルド人武装勢力から攻撃を受けた。

    Furqa al-Sultan Muradは、CIAの秘密計画の一環で、アメリカから武器を供与され、支援を受けている。反政府勢力の関係者や内戦を追っているアナリストらによると、こうした秘密計画では、シリアのアサド大統領の政権転覆を狙っている反政府グループが支援される。

    一方、クルド人武装勢力も、IS(イスラム国)と戦うアメリカの取り組みの一環として、国防総省から武器供与と支援を受けている。クルド人民防衛隊、またはYPGとして知られる彼らは、オバマ政権の対シリア過激派戦略の中核を担い、アメリカによる空爆と連携し、動いている。

    しかし、この数週間で、アサド政権とロシア連合軍はアレッポ周辺の反政府勢力を後退させた。援助団体はこの状況を人道主義存続の危機だと警告している。YPGは、この機に乗じて、土地を奪い返そうとしている。

    YPGは、アレッポ県とイドリブ県の北部にある主要な村々を占拠した。これに応じる形で、トルコはこの週末アアザーズ付近のYPG陣地へ砲撃を開始した。アメリカにとっては、自身の代理人がNATO同盟国から非難されるという、新たな扱いづらいシナリオが出来上がってしまった。

    しかしながら、アメリカはロシアとシリアが穏健派の反政府勢力パートナーを攻撃するのを傍観し、YPGによるパートナーへの攻撃もやめさせようとしなかった。ワシントン中東政策研究所のシリア専門家アンドリュー・タブラーは「そこが大きな問題だ」と指摘している。「単にばかげた政策というだけではない。アメリカはロシアに対する影響力を急速に失ってしまい、もはや彼らは我々の話を聞こうともしない」

    Furqa al-Sultan Muradのオスマン司令官は、彼の支配下にあるアレッポの2つの地域を、YPGが奪おうとしたが、銃撃戦となり、両陣営に犠牲者を出したことを語った。彼は7名のYPG戦闘員を捕まえ、捕虜として拘束していることを付け加えた。

    オスマンの組織は、アメリカから対戦車ミサイルを含む武器の供与と支援を受け、アサド政権、またISとも戦っているという。こうした支援は長期間のCIAの取り組みの一環だ。このCIAの取り組みは米議会によって承認され、サウジアラビアなどの同盟国も参加し、トルコにある司令室から統制されている。オスマンは現場で起こる問題について、定期的にアメリカ人担当者と連絡を取っていると語った。「アメリカはYPGを止めなければいけない。アメリカはYPGに、自分たちが攻撃しているのは、自分達がYPGと同じように支援している組織なんだと、教えなければいけないのに」と彼は言った。「でもアメリカはただ見ているだけだ。私には、アメリカの政治はまったく訳が分からない」

    司令室からの支援を受けているその他の3つの勢力(北部勢力、ムジャヒディン軍およびシャーミーヤ戦線と呼ばれる同盟)の関係者は、これらの勢力が現在シリア北部でYPGと戦闘をしていると語った。「(司令室)に支援されて、今YPGと戦っている勢力はたくさんある」と語るのは、北部勢力のアハメド・ハマーダ大佐だ。彼の戦闘員の一部はかつてアメリカで訓練を受けていたという。

    トルコ政府の関係者は、彼がシリア政策の失敗と呼ぶものを理由に、アメリカを非難した。「YPGは、アメリカの援助を受けている勢力から、土地や村々を取り上げている」と、この問題の機密性の高さから匿名を条件に語る。「勢力はアメリカの援助を受けているだけではない。一部の者は、アメリカの訓練も受けているのだ」

    関係者は、アメリカが支援する反政府勢力が最近その支援の縮小を経験した一方で、YPGがアメリカ政府とロシア政府の双方から高い関心を受けていると付け加えた。「アメリカ人は穏健派の反政府勢力に十分な物資を与えていない。いかなる政治的な支援も提供していない」と彼は続ける。「そして、YPGが彼らを攻撃するのを止めなかった」

    「彼らは、それらの地域では、YPGを統制できないと言うのだ」と彼は付け加える。「それが関係者の答えなのだ。我々には何の意味もなさない。他に何が言えるだろうか?」

    メールで、YPGの支援を監督する中央司令部のパトリック・J・ライダー大佐は、「様々な反政府勢力間の今後の軋轢について、提供できる情報はない」と述べた。

    「シリアは非常に複雑で困難な環境にある」と彼は言う。「確かなのは、ISとの戦いにおいて、先にいた反IS地上勢力の支援に今後、我々が重点的に取り組むということだ」

    ある国務省の関係者は、匿名を条件に、状況がますます複雑になっていることを認めた。「最近シリア北部で挑発行動をしているすべての勢力に対して、そういった行動はISへの圧力を軽くするだけで逆効果であり、ISを弱体化させるための我々の包括的な連携協力を弱らせると伝えた」と、彼はBuzzFeed Newsに語った。

    YPGのスポークスマンは、コメントをしなかった。大西洋評議会のファイサル・アイタニ上級研究員によれば、今のところ、YPGは、アメリカが支援する穏健派も、総出なハイ勢力とも、同様に戦っているように見えるという。「ロシアの空爆とアレッポ地方南部への政府軍の進攻で、YPGは物理的にアアザーズ (周辺の)領土も獲得している」と彼は語った。「このような動きは日和見的だと思う。この地方の反政府勢力の損失を利用して、YPGは領土を増やしている」

    YPGはクルディスタン労働者党(PKK)のシリアの分派である。PKKは、トルコ南東部でトルコ政府と戦っている反政府軍だ。アメリカ政府もトルコ政府も、PKKをテロ勢力に挙げている。ところが、トルコ政府の怒りを買っているのは、アメリカがPKKとYPGを区別しようとしていることだ。アメリカは後者を重要なパートナーに掲げている。1月下旬に、反IS同盟へのオバマ大統領のブレット・マクガーク米大統領特使が、シリアの町コバニでYPGを訪問した。YPGは昨年、アメリカの空爆の助けを借りてこの町をISから守ったのだ。

    YPGは、オバマ政権がアサド大統領と直接向き合わないでいる状況をうまく利用できている。YPGは、シリア政府との緩衝材となるかわりに、ISや他の過激派をクルド人の土地から追い返している。

    YPGを容認する一環として、国防省は、新しいYPG主導の軍事同盟、シリア民主戦線(SDF)をてこ入れし、小規模のアラブ勢力に参加するよう呼びかけた。10月に、政府は、シリアのSDFに向けて、武器を空から提供し、特別軍隊顧問を置いた。このどちらも、YPGへのアメリカの支援に大義名分を与える企てであり、スンニ派のアラブ拠点からISを追い出すには、スンニ派アラブ戦闘員の大きな協力を必要とする現実を認めたものだ。

    国防省の関係者は、アメリカの取り組みを、最近のアレッポ周辺のYPGによる攻撃から分け隔てようとした。彼によると、アメリカは、ユーフラテス川東部のYPGはISと戦っているため支援しているが、西部の反政府勢力に対して新しい軍事行動を起こしているYPGは支援していないという。「ユーフラテス川西部のクルド人勢力の一部」は、「シリアの反政府勢力の一部と戦っている」と、匿名を条件で彼は語った。

    「ここで重要なのは、我々がこうした勢力に直接的な支援を行っていないということだ」と彼は付け加える。「我々の作戦は、ISと戦っているユーフラテス川東部のSDFが担っている」

    アメリカの2つの代理グループ間の戦いは、オバマ政権のシリア政策の矛盾を反映している。「SDFは、いわば失敗した司令室モデルに代わるものなのだ」と、新アメリカ安全保障センターのアナリスト、ニコラス・エラスは語る。

    だが、彼は、Furqa al-Sultan Muradは、ISだけでなくアサドとも戦っており、いまだにアメリカによる過激派への防波堤としてとらえられていると指摘した。この勢力は「ISと前線で戦っている部隊なのだ」と彼は言う。

    ワシントン中東政策研究所のタブラーによれば、最近の状況が、アメリカがISとの戦いに対して不可欠なアラブ側の拠点を築くことを困難にした可能性があるという。「これが続けば、アメリカにはYPGと行動を共にするしかなくなる」と彼は続ける。「クルド人が、シリアの人口の大多数であればいいのだが、そうではないのが事実だ。我々は、ISと戦うスンニ派アラブ人を必要としている」

    参考:トルコのMunzer al-Awadからの追加報告