みんな左派……米の若者たちは、なぜバーニーが好きなのか

    アメリカ。若者たちのリアル。

    米大統領選の指名争いで、民主党のバーニー・サンダース氏が4月5日(現地時間)、ウィスコンシン州を制し、6連勝した。若者たちの圧倒的な支持で、大本命のヒラリー・クリントン氏に迫る勢いだ。人気の秘密は何か。

    就職難に生活水準の低下……。日本を含む先進国の若者たちは今、どこの国でも同じような問題を抱えて生きている。

    大統領戦が白熱するアメリカで、25歳以下の人たちのうち、仕事に就いていない人は18%。20代の大半は、組合に所属していない。また、学生ローンの総額は1兆ドル(90兆円程度)に膨らんでいる。親の世代とは違う価値観を持つミレニアル世代の多くは、民主社会主義 (democratic socialist)を自称する民主党大統領候補、バーニー・サンダース上院議員に熱狂する。労働者の権利拡大のための運動や、黒人差別に対抗する動き、Black Lives Matterに、積極的に関与する若者たちも少なくない。

    2月、アメリカの若手の論客たちによる社会状況への提言集「The Future We Want(私たちの望む未来)」が出版された。この本には、文化や政治批評家たち10人の文章が収められている。BuzzFeed Newsは、編集を担当した2人の若者、サラ・レナードバスカー・スンカラに話を聞いた。

    同世代の若者たちは、組合に一生入らない人もいる。このような人たちが労働者の権利を求める運動に関与することについて、どう思うか?

    サラ:何年か前、Tumblrに借金を抱えている人たちが、借金の額を書いた紙を顔の前に掲げ、写っている写真を投稿し始めました。「医療費の借金をこれだけ抱えている。学生ローンがこんなにある。本当に恥ずかしい」などと書いてありました。多くの人が投稿したので、アメリカの若い人々が多額の借金を抱え生きている現実は、一つの大きな現象なのだと、目にみえるようになりました。

    これまでは、みんな自分に原因があって、苦しい状況に陥ってるんだと思っていたと思っていました。自分がバカなだけだったんだと思っていたのです。それは、本当に嫌な気分です。でも、自分の抱えている問題が、社会的な問題だと分かれば、戦うことで状況が変えられるかもしれないと、思えてくるのです。

    バスカー:みんな、組合活動のことを知らないのではなくて、損得を考えてあえて始めないだけです。

    今は失業率が高く、大きな労働運動もない時代。たとえ雇用されていたとしても、つつましく暮らしているはずです。借金を返すためには、友人や家族、もしくはクレジットカードローンの世話になるのが普通でしょう。

    普通の労働者が、労働者の権利のために動き出すために、どれだけのハードルがあるのでしょうか? 負け犬根性ではなく、集団的な行動が実現可能になるまで、どれくらいの段階が必要なのか、見極めなくてはなりません。

    本では、人種、ジェンダー、セクシュアリティと階級にフォーカスして描かれている。労働運動とこれらの社会問題はどのように重なっているのか?

    バスカー:こういう議論は、しばしば、社会的に不公正な立場におかれている人たちの「アイデンティティ政治」としてとらえられがちで、きちんと取り上げられていません。むしろ「反抑圧政治」と、古い言い方をしたほうが良いと思います。この本で強調しているのは、反レイシズムや反性差別の問題は、階級の問題を無視して語ることはできないということです。このような問題は、その人の社会的階級を無視して、語るべきではありません。

    この本は、国内の問題を主に扱っている。海外にこの状況を伝えていくということをどう考えているか?

    サラ: 他の国でも、近い動きが起こっています。富の再分配を掲げる英労働党のコルビン、反緊縮策を掲げるギリシャのチプラス政権やスペインの新党・ポデモス、ポルトガルの左派政党などがそうです。人々は苦しむと、左寄りの政府をのぞむようになります。みんな「この状況から私たちを救って!」と言っているかのようです。

    しかし、左寄りの政府を作っていくためには、まだまだ勢い不足。この本を通じて、私たちは「実際に勝利したら、どうなるのか?」ということを考えています。これは、社会主義政府が誕生した場合の政策概要ではありませんが、ベストは尽くしています。

    大切なことは、批評するだけの立場から抜け出し、理念を実現する機会がやってきた時に、実際にどうするのか考えることです。

    この本には、現実的に思える内容もたくさん書かれているが、急進的で理想主義的な考え方も提示されている。理想主義的な考えも重要だと思うか?

    サラ: サンダースの主張を、理想主義的ととらえる人と、現実的ととらえる人がいます。組合がなく、賃金も低く、医療制度もない状況に生きている人にとって、彼の主張は具体的なものに聞こえます。しかし、「彼は何もできない。サンダースの政策が通過するまで街には、犠牲者が出る」という人もいる。でも、犠牲はすでに払われているんです。西ヨーロッパに比べてアメリカの新生児の死亡率は高いですし、看護師の労働組合に所属している女性と話したら「集中治療室に病人が運ばれてくると、まずみんなが気にするのが、どうやって治療費を払ったらよいのか? ということ」だと言います。

    バスカー:この選挙戦は、サンダースの急進的な改革と、クリントンのやや緩やかな改革の戦いだと思っています。共和党が現在の状況だと、緩やかな改革案はどっちにしろ通過すると思えません。不十分な改革か、独自の社会的な基盤を築ける政治か、どちらが良いのかということです。

    アメリカの人々は、急進的な何かを待ち望んでいます。敵が誰なのかを、はっきりさせ、今まで目にしたことのない提案を見たいと思っている。サンダースが、急進的な提案をしなければ、世界はドナルド・トランプのような人たちの提案によって作られていくでしょう。

    トランプとサンダースは急進的であることに変わりはない。しかし考え方は逆だ。

    バスカー: そう。今起こっている社会主義運動は、広く浅い。できるだけ多くの人に話をしないといけないのですが、同時に自分たちが周縁部にいることも、意識していないといけないと思います。

    サラ: 「The Future We Want」には、現実的(pragmatic)な提案を載せたいと思いました。現実に想像できないものは一つも掲載していません。児童手当の支給や、環境に優しい仕事をする人たちが、きちんと給料をもらえるようにすること。これらは不可能なことではないし、政治的な意志さえあれば、そんなに時間をかけずに実現できることばかりです。

    二人はどのようにして、現在の政治的立場になったのか?またなぜ、この本を編集することになったのか?

    サラ: 私はリベラルな親のもと、民主党支持者として育ちました。民主党は中途半端なことが多いことに不満を持っていました。「富の再配分をしたい」と言っては、端っこを少し触って終わるからです。そんな中、Dissentという民主社会主義者のための出版物で働き始めました。

    バスカー: 両親は、私が生まれる1年前、1988年にアメリカにやってきた移民です。生まれてから数年は、引越しが多かったはずです。私の父親は階級から脱落していたし、母は高校を卒業しなかったので、テレマーケティングなど、さまざまな仕事をしていました。

    5人兄弟の末っ子の私は、自分のやりたいことを追求して大学にいけるなど考えてもみませんでした。ものすごい偶然でもなければ、大学に行くのは不可能だと思っていました。その後、両親が2人とも、行政関係の職に就いたので、家計の状況はよくなりました。その状況の中で、私の社会民主主義的(social-democratic)でリベラル、そして公共財や公的な仕事への親和性のある政治観ができていったと思います。

    上の世代の批評家たちは、あなたたちの急進的な姿勢をどう思っているか?

    サラ:急進的な若者たちが増えて欲しくないのなら、借金しなくても大学に行けるようにすべきだし、医療制度のない社会を作ってはいけなかった。前の世代の負の遺産なのですから。