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電通、労働時間の上限引き下げへ 新入社員の過労自殺を受け、社長が文書で通達

22時に全館消灯。「当社における労務管理は、極めて大きな変化を遂げる」。

国内最大の広告代理店・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が過労で自殺した問題で、同社がこれまで月間労働時間の上限を5時間引き下げることがわかった。10月17日に石井直社長が社員に送ったメッセージの文面などを、BuzzFeed Newsが入手した。

それらによると、「最長で法定外月間50時間」(所定外月間70時間)に設定していた上限を、「最長で法定外月間45時間」(所定外月間65時間)に引き下げるという。

法定時間は、労働基準法により定められている1日8時間。所定時間は、就業規則で定められており、電通の場合は1日7時間。これらを超える労働時間の上限について、月あたり5時間引き下げる方針だ。

また、これらの実現に向けて、人事局は「全館22時消灯」の方針を社員に通達。長時間労働が常態化していることで知られる電通において、「労務管理は、極めて大きな変化を遂げる」(石井社長)。

「ステークホルダーから受容され得ない」

メッセージの冒頭には「社員の皆さんへ」とある。「当社における労働環境の抜本的な改善に向けて」と題して、10月14日に東京本社や関西、中部で実施された東京労働局による「臨検監督」に触れている。

臨検監督が、このような広範な規模で実施されることは前例がなく、また、東京における臨検監督には「過重労働撲滅特別対策班」も参画したことは、当社の労働環境に対する当局の関心の高さの表われであり、社はその事実を極めて厳粛に受け止めています。

また、高橋まつりさんの自殺が「社の業務上の事由にあることが行政に置いて認められ」たことにも触れている。

そのうえで石井社長は、「行政指導である是正勧告にとどまらず、法人としての当社が書類送検されることも十分に考えられる」と踏み込み、一連の報道や論調について、「電通という企業を糾弾するもの」と評価して、こう述べている。

一連の報道に接し、心を痛めている社員の皆さんの心情を思うと、私自身、社の経営の一翼を担う責務を負っている身として、慚愧に堪えません。

高橋まつりさんに関する労災認定の一件に加え、先日の臨検監督、さらにはその後の一連の報道における論調は、当社が現在直面している事実を如実に表しています。

それは、これまで当社が是認してきた「働き方」は、当局をはじめとするステークホルダーから受容され得ない、という厳然たる事実に他なりません。

さらに、こうも付け加えている。企業と社員が持続的に成長し続けるためには、業績だけではなく、「日々仕事に取り組む社員が、健全な心身を保ち続けていることが、その企業の根幹において成立」していないといけない、と。

労働管理方針を刷新

「いま私たちには、具体的な行動を起こすことが求められています」と、石井社長は社員に語りかける。

そのうえで、電通が「社員の皆さんが健全な心身を保ち続けると同時に、個々の仕事を通じて、自己の成長を実現・実感できる」企業であるために、労働管理の方針を刷新するとして、以下の6点を示した(原文まま)。

1. 現時点で違法であることが指摘されている現状を改善するため、「三六協定」の管理を、現行の年次管理・月次管理に加えて、日次でも管理することとする。この日次管理は、本日より実施する。

2. 現行では、最長で法定外月間50時間(所定外月間70時間)を上限に設定している三六協定の上限を、現行の労使協定の改定に合意するまで、最長で法定外月間45時間(所定外月間65時間)に引き下げる運用を開始する。

本運用は、11月1日から正式に開始するが、本方針は、本日付で全てのマネジメント職に対して通達し、本日より、可能な範囲で10月中の対応も図ることとする。

3. 労働基準監督官からの指摘を踏まえ、「自己啓発」「私的情報収集」による私事在館を禁止とする。業務上必要なこれらの活動は、業務命令を受けたうえで、勤務登録する。

4. 現行の労使協定の改定に合意するまでの間、現在、最長50時間と設定している特別条項の上限を30時間に引き下げる運用を開始する。本運用は、11月1日から正式に開始する。

5. 2016年4月に当社に新卒入社した社員については、2016年11月と12月において、特別条項の適用を認めない

6. 上記方針は、本日よりその実現に向けた取り組みを開始する共に、引き続き、当社労働組合との間で締結する協定内容の変更に向けた労働組合との協議を重ねる。

亡くなった高橋さんの場合、労基署が認定した高橋さんの1ヶ月(10月9日~11月7日)の時間外労働は約105時間だった。

一方の「特別条項」は、厚労省ホームページによると、 「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される」ときのために設けられたもの。ただ、「一時的又は突発的であること」「1年の半分を超えないこと」が条件とされている。

高橋さんの死を受けてか、新入社員がそれから除外されることがわかる。

具体策は「22時全館消灯」

同じ日、人事局からも「【重要】勤務管理の運用変更について」という文書が送付された。

この文書では、社長が送付した変更内容を改めて伝えるとともに、

月間法定外45時間(所定外65時間)を超える時間外労働は脳・心臓疾患発症のリスクを高めるとされています。また、月間法定外80時間(所定外100時間)を超えると業務と発症の関連性が強いと判断されます。したがって、この基準以内で健康的に勤務していただきたく、運用を変更します。

月間だけでなく「1日」の協定時間の順守も徹底してください。三六協定では1日の時間外の上限も定めており、1日の協定時間超過も労働基準法違反と見なされます。

などと丁寧に解説し、こんな具体策(抜粋)を提示している。

2. 22:00全館消灯(10月24日から実施)

22:00~翌5:00は全館消灯とします。早目の業務終了に心掛け、帰宅するようにしてください。

3.私事在館運用の変更(10月17日から運用変更。システム対応は順次)

(1)「自己啓発」「私的情報収集」「私的電話・私的メールのやりとり・SNS」による私事在館を禁止とします。業務上必要な「自己啓発」「情報収集」は、業務命令を受けたうえで、勤務登録するようにしてください。

(2)社内飲食や電通会等のサークル活動、組合活動のような、勤務外であることが明白な事情については、私事在館を容認します。ただし、事前に上長に口頭やメールによる報告と承認を前提とします。

(3)私事在館は、始業前、終業後、休日において、30分までとします。今後は、乖離時間は1時間以上ではなく、30分以上で把握、管理していくこととします。

石井社長の考える「働き方」

これらの方針転換によって、石井社長は「当社における労務管理は、極めて大きな変化を遂げる」と指摘。ただ、社員にも働き方の見直しを強いることになるため、負担軽減策にも取り組んでいると紹介した。

高田専務を責任者とし、事業部門内において、「予算示達方式の見直し」、「クライアント業務・社内業務の優先度」、「マネジメントによる個人業務量(アサイン)の平準化の推進」、「個別業務に対する時間投下状況の見直し・効率化」等を始めとして、社員の皆さんの負担軽減に向けた方針・施策の策定に、既に着手しています。

後半、石井社長は自らが考える「働き方」について、こう記している。

「働き方」とは概念でありその解釈も多様ですが、明らかなことは、「働き方」とは「時間の使い方」と不可分な関係にある、ということです。

そして、「働き方」の進化とは、日々の仕事、日々の暮らしにおける時間の使い方を、私たち一人ひとりにとって、より有意義で、実りあるものにすることであります。

メールの最後は、社員を鼓舞するこの文言で終わる。

この難局を打開することは、私たち電通の新たな可能性を切り拓くことでもあります。共に、私たち自身の新たな未来を創り上げましょう。