なぜ、私は7年半「鳩サブレー」を独学で焼いたのか

    本物を目指す謎の個人ブログ。作者に聞いてみた

    7年半以上、本物の「鳩サブレー」を目指してサブレーを焼き続けている謎の個人ブログ「わくわく何でもチャレンジ♪」。

    2008年6月3日にサブレーを焼き始めてから現在まで、ずっと本物の「鳩サブレー」を追求している。

    材料を変えたり、焼き方を変えてみたり、

    ときには割れ方を研究してみたり。

    本物を目指してさまざまな試行錯誤を繰り返す作者。毎回の仕上がりに点数をつけ、反省点をつづるなど、「鳩サブレー」作りへの真摯な思いが伝わってくる。

    なぜ「鳩サブレー」を作り始めたのかーー作者のわくわくさんは身元を明らかにしない条件でBuzzFeedの取材に応じてくれた。ちなみに、職業は「お菓子作りや食品には全く関係していません」とのこと。

    「鳩サブレー作りを始める数カ月前に自炊を始めました。ようやく慣れてきたころでした。十数年ぶりに鳩サブレーを食べたら懐かしい味がしました。もちろん、美味しかったです」

    「で、袋の裏を見たところ、原材料が膨張剤以外のものは家にありました。当時、お菓子作りの経験もなかったのですが、『原材料を全部混ぜて焼けばサブレーになるのかな? 簡単に作れそう』くらいの軽い気持ちで作ったのがきっかけです」

    「5回くらい作れば80点程度のサブレーができると思っていたのに、いざ作ってみると全然できませんでした 。負けず嫌いの私は納得できるレベルのサブレーができるまで作るのを止められなくなってしまい、現在に至るという感じです」

    7年半の試行錯誤の甲斐あってか、2008年と2016年のものを比べてみると、そのクオリティの差は一目瞭然。

    : 2008年 | : 2016年

    7年半以上「鳩サブレー」を作り続ける中、モチベーションが下がることはなかったのか。質問してみたところ「基本的にはないです。なぜなら自分で納得できていないから」との答え。

    ただ、あえてあげるなら「魚用グリルで焼く限界を感じた」ときだという。そう、当初はオーブンを買わずに魚用グリルで焼くことにこだわっていたのだ。

    しかし、「このまま続けてもこれ以上のものはできないと感じた。次のステージを目指してオーブンを購入した」のだそう。

    当初は本物の「鳩サブレー」を目指していた本ブログ。最近では安定して90点以上のサブレーを焼くことができるようになった。今度は本家の「鳩サブレー」以上においしいものをつくることを目標に。シーズン2がスタートした。

    ちなみに、「鳩サブレー」の本家である豊島屋に取材したところ、コメントをもらうことはできなかった。この件についての問い合わせが増えて困惑しているという。

    「鳩サブレー」を作り続けて見えてきたもの

    「本家より美味しい鳩サブレーを作るぜ!」ーーそんな意気込みとともにスタートしたシーズン2。

    わくわくさんに本家である豊島屋に負けない技術がついた自信があるかどうかを聞いた。しかし、意外にも「ない」との答えが返ってきた。それよりも、本家への尊敬の念を抱いたという。

    「比較のために本物をよく購入していました。本物でも毎回、出来が微妙に違うんですよね。他社のサブレーに入っているような、安定剤や乳化剤などの添加物を使っていないから、(品質を安定させるのが)難しいのかもしれません」

    「添加物を入れている会社でも『日々の気温の変化に対応するのには苦労している』という話を聞きます。それでも余計な添加物を入れずに製造し続けて、かつある程度のクオリティで安定させるというのは並大抵の努力ではできないと思います」

    「その努力を察することが出来るようになったのもサブレーを作り始めたおかげです。それまでは簡単に作れるものなんだろうな、くらいにしか思っていませんでした」

    その結果、「鳩サブレーという狭い範囲だけではなく、食べ物全体への見方が変わった」のだという。

    「鳩サブレーを作り始めるまでは、美味しい食べ物に出会うと『うわ~! 世の中にはこんなに美味しい食べ物があるんだ~! 凄いな~』というような感動を覚えていました。ただ単純に五感で感じるだけでした」

    「ところが、鳩サブレーを作り始めてから、美味しいものを作る難しさを知ることになります」


    「料理人や生産者の方々も相当苦労されているんだろうな、というところに考えが及ぶようになりました。美味しい肉を食べたときに、畜産農家の方がどれだけ研究を重ねてこのお肉を生産したんだろうか。この味を出すまでに、料理人の方がどれだけ苦労したんだろうか? とか」

    「尊敬の念と感謝の気持ちが自然と湧いてくるようになったんです。そして、食事のときの挨拶『いただきます』と『ごちそうさま』にも今まで以上に気持ちが入るようになりました」

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