「農業アイドル」の死、背景にパワハラと遺族が所属事務所を提訴へ

    2018年3月、大本萌景さんは16歳で、自ら命を絶った。

    愛媛県を拠点に活動する地域アイドルグループのメンバーが2018年3月に自殺した。その遺族らがグループの所属事務所などを相手取り、慰謝料などを求める訴訟を10月12日、松山地裁に起こす。原告弁護団がBuzzFeed Newsの取材に応じた。

    訴訟を準備している原告弁護団によると、亡くなったのは、愛媛県で「農業アイドル」として活動していたグループ「愛の葉Girls」の大本萌景(おおもと・ほのか)さん。16歳だった2018年3月21日、死を選んだ。

    提訴するのは、大本萌景さんの両親ら遺族4人。「愛の葉Girls」が2018年6月まで所属していた「hプロジェクト」(佐々木貴浩社長)と同社幹部ら、及び、その後グループの譲渡を受けた「フィールド愛の和」を相手取り、訴訟を起こす。

    弁護団が準備している訴状では、次のように経緯を説明している。

    集合午前4時半、解散午前2時

    萌景さんは2015年、愛媛県を拠点とし、農業の魅力を訴えるアイドルグループ「愛の葉Girls」のオーディションを受けて合格し、同年7月からグループのメンバーとなった。

    グループは土日を中心に物販やライブなどのイベントなどで活動し、集合時間が早い時は午前4時半で、遅い時は解散が午前2時ごろになることもあった。イベントでの拘束時間は平均で12時間を超えていたという。このほか、週に3〜4回のレッスンがあった。

    萌景さんが県立の通信制高校に進学した2017年4月以降は平日の日中もイベントで拘束されるようになり、日曜日の登校日も仕事で欠席せざるを得なくなった。

    学業との両立を求め、過労も覚えるようになった萌景さんは再三にわたり休暇を求めたが、「お前の感想はいらん」などという高圧的な言動を受けて相手にされなかったといい、周囲に「辞めたい」と口にするようになった。 

    「辞めるなら違約金1億円」の末...

    2017年6月、萌景さんは辞意を伝えた。事務所側が「全日制の高校に行った方が休日のイベントにも出られる」「お金の心配はせんでええ」と持ちかけたことで、萌景さんは翻意し、2017年12月に通信制高校を退学。翌年度から全日制の私立高校に入り直すことを決めた。2018年2月、私立高の入学金3万円を事務所に借りて納入した。その後、制服代などとして約7万円を借りた。

    萌景さんのことを心配した母親は同年3月17日、事務所側に「契約の満期となる2019年8月末で、御社との契約を終えたい」と伝えた。

    そして3月20日、高校に納付しなければならない残りの12万円を借りるため萌景さんと母親が事務所に出向いたところ、貸し付けを拒否された。その夜、社長からLINEで萌景さんに通話があり、「辞めるなら違約金として1億円払え」と言われたという。萌景さんは翌日朝、周囲に「社長に裏切られた」などと話した。その後、自室で死を選んだ。

    遺族側は、パワハラや重大な不法行為があったとして、当時の所属事務所と幹部ら、及びグループを受け継いだ現在の事務所に慰謝料などを請求する訴訟を起こす。

    請求額は、16歳で世を去った萌景さんが本来得るべきだった収入や慰謝料などから約9268万円と算定した。

    「地下アイドルの子たちのために、萌景の死を無駄にしたくない」

    原告の1人で萌景さんの母親はBuzzFeed Newsなどの取材に応じ、訴訟に至った理由について次のように話した。

    「自殺する前に萌景が抱えていた悩みは、愛の葉Girlsでのトラブルしかなかった。自殺の原因ははっきりしているのに、向こう(事務所側)は謝罪もない上に、私の『責任を感じていますか』との問いに『責任ということは考えたこともありません』と答えました」

    「ファンの方々にも真実を知ってもらいたい。そして、同じ境遇にあっている地下アイドルの子たちのためにも、萌景の死を無駄にしたくないのです」

    消された事務所の声明

    BuzzFeed Newsは、hプロジェクトに電話とメールで見解を求めている。同社側から連絡が入り次第、追記する。

    5月に萌景さんの自殺を報じた週刊文春によると、同社は「萌景さんに全日制高校へ進学することを勧めた。3月20日、責任を持った大人になってほしいとの思いから『お金を貸すことはできません』と発言した」などと週刊文春の取材に回答し、一部の事実関係を認めたという。一方で「1億円を支払え」と言ったということは否定したという。

    また、この報道を受けて同社は一時、ホームページに声明を掲載していた(現在は閲覧できない)。

    アーカイブに残る声明文は以下の通り。

    文春オンラインの記事につきまして

    先日、株式会社文藝春秋が運営する文春オンラインにおいて、愛の葉Girlsのメンバーが帰らぬ人となったこと(以下「本件」といいます。)についての記事が掲載されました。

    弊社におきましては、故人のご冥福を祈りつつ、弊社に一切の発言を認めないというご遺族の意向から、本件に関する発言を控えておりました。

    しかしながら、上記記事において事実ではないことがまるで事実であるかのように書かれており、現在、インターネットや各種SNS上において虚偽の情報が飛び交っておりますことから、やむなく本件に至った事情を説明することに致しました。

    上記記事では、弊社の代表佐々木が故人に対して1億円を要求したかのように書かれておりますが、そのような事実はないことを断言させて頂きます。

    故人に対しては高校入学に必要な入学金や制服代を貸し渡しましたが、ご遺族からその返金は受けておりません。

    現在、亡くなった理由は弊社にあると決めつけた上で、ネット上に脅迫文言や誹謗中傷を書き込んだり、業務妨害を目的とする電話をかけ続けたりという例が相次いでおります。

    脅迫・名誉毀損・業務妨害等の違法行為につきましては、現在、警察に相談し、弁護士を通して法的手続をとる様、進めております。

    愛の葉Girlsは弊社を離れ、他社において活動する予定となりましたが、変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。

    今後何か動きがありましたら逐一皆様へご連絡致します。

    hプロジェクト株式会社 代表取締役 佐々木貴浩

    また、5月26日付の愛媛新聞は、事務所への誹謗中傷などがネット上に書き込まれるケースが相次いでいるとして、同社が法的手続きを取ることを検討していると報じている。