もう解党なのに……なぜ民進党は高揚感に包まれているのか?

    選挙のリアリズムの前に、民進党は事実上の解党を選んだ。その先に何を描くのか。解散、そして"解党"の日ルポーー。

    「これで政権交代だ!」

    衆議院第16控室——。9月28日正午を前に、本会議を欠席した民進党議員が集まり、代議士会を開いていた。

    そして、解散が決まった直後である。拍手とともに廊下に向かいながら、ある若手議員は快哉を叫んだ。「これで政権交代だ。来月、見ててみな」。

    民進党は、事実上「解党」して、小池百合子代表が率いる新党「希望の党」に合流する道を選んだ。

    代表の前原誠司さんが水面下で進めてきた交渉の結果だ。大荒れを予想する声もあった両院議員総会で、前原さんはこんな提案をした。

    • この総選挙で民進党の公認内定は取り消す
    • 民進党候補予定者は「希望の党」に公認申請する。その交渉は前原代表に一任する。
    • 民進党は候補者を擁立せず、希望の党を全力で支援する。


    そこで議論はいったん、メディア非公開の「懇談会」に移された。

    そして、わずか1時間後である。

    再び開かれた両院議員総会で、前原案は、満場一致で拍手承認された。

    「ピンチはチャンスだ」

    午前中から前原さんは「ピンチはチャンスだ」「安倍政権の冒頭解散は戦後初の暴挙。なんとしても安倍政権を終わらせる」と力説し、小池新党との合流を説いていた。

    参加した議員も「よしっ」と声をあげる。椅子の背もたれに右手をかけて、モニターを見つめる前原さん。衆院の解散が決まると、第16控室は異様なまでの高揚感に包まれた。

    流れはもう決していた。党内の護憲派議員ですら、「議論で決まったことなら従う。安倍政権を止めないといけない」と言う。

    「若手のホープ」と呼ばれてきた玉木雄一郎・衆院議員は「これ以上ない最高の決断。目標は政権交代しかない。共産党以外の野党は結束して、隠蔽体質の安倍政権は終わらせないといけない」と興奮気味に語っていた。

    いま投票するなら、どの党に投票するかーー?

    朝日新聞の9月26、27日の世論調査で、「希望の党」は13%で、民進党の8%を上回り、何もしていないのに野党でトップとなっていた。

    ここに民進党の支持層が加われば……と想像し、彼らが納得、もしくは興奮することもわかる。

    だが、懸念はないのか。

    「日本のことより、選挙が大事だと思われている」(前原さん)

    《民進党の議員は日本を考えているのでなく、次の選挙が大事だと思われているのではないでしょうか。つまり、政治家ではなく、議席を考えている政治屋集団だと見られている。》

    「なぜ、民進党は信頼されないのか」という質問に対する、前原さん自身の答えだ

    だからこそ、前原さんは「理念・政策」の一致が必要だと繰り返し強調していたのではなかったのか。

    記者会見で……

    両院議員総会後の記者会見で、まずもって強調されたのは、名より実をとる戦略の重要性だった。

    つまり「安倍政権を終わらせるために、小選挙区で一対一の構図を作る」こと。

    そのために候補者擁立を進めている希望の党と合流し、候補者乱立を防ぐのだ、と。

    だが、これは選挙戦のリアリズムを語っているにすぎない。

    重視してきた理念・政策の一致はどこへ?

    彼らは目指すべき像として「自民党的な自己責任社会ではなく、再分配を強化して、みんなで支え合う社会」(前原さん)を打ち出していた。

    そして、安保法を「違憲の疑いがある」と主張してきたはずだ。

    自民党議員として安保法に賛成し、東京都知事選では、安倍政権を「90点」とまで評した小池さんと組めると思った根拠はどこにあるのだろう。

    前原さんは「階猛・政調会長を窓口」にして、希望側との交渉を続けていたと明かした。

    そして、ブレーンである井手英策さん(慶応大教授)と練り上げた社会政策「All for All」の重要性も理解してもらったこと。

    そして、憲法改正を議論するという方向性、原発ゼロを目指すこと、地方主権——といったところに希望の党との一致点があると語った。

    しかし、前日27日、希望の党の結党会見で、小池さんは「しがらみない大胆な改革」といったふわふわした総論に多くの時間を費やしていた。

    前原さんが語るほど、一致点は明らかではない。現状は、小池さん主導で新党構想が膨らんでいる。

    風まかせでいいのか?

    かつて民主党政権が3年3ヶ月で失敗した理由を「人の好き嫌い、反小沢(一郎)か親小沢かで党を割るほどケンカした」と前原さんは振り返っていたが、本当にそれだけだろうか。

    自民党政権を変えなければいけないという空気、あるいは「風」で民主党政権は誕生した。

    しかし、一時の風と勢いのいい言葉だけでは政治はできない。地道な実績の積み上げが何より大事だったはずだ。

    代表選を戦った枝野幸男さんは私のインタビューにこう答えていた。

    《私自身、日本新党ブーム、「風」で初当選をしました。しかし、地域に根を張っていない政党は、本格政党たり得ないのです。民進党は本格政党です。

    いっときの風はもろい。風に乗り続けるためには、ポピュリズムを徹底するしかなくなるんですね。

    これは日本の政治にとってマイナスです。地域に根を張っている皆さんの声を聞きながら、ガバナンスを進める。選挙に得だから損だからと国会議員が右往左往することで、党全体が右往左往してはいけないんです》

    時間をかけて積み上げるということ

    この日、午前中の代議士懇談会にいち早く姿を見せたのは枝野幸男さんだった。

    普段とは違うメガネ姿で、たった一人で誰も座っていない椅子の間を歩く。

    席に置かれた衆議院の座席表を眺めながら、腕を組み、そして目線をふっとあげて、天井を見つめる。

    午後には正式に決まるであろう、事実上の解党を前に何を思っていたのか。

    インタビューで枝野さんが繰り返していたのは、各地域に根を張った「本格政党」を作るには時間がかかるということだった。

    「風」と「反安倍政権」

    組織も実績もないが「風」は吹いている政党と、曲がりなりにも地域に根ざした組織を持っている政党との合流ではある。

    お互いの足りない部分を補い合う選択という説明は成り立つ。

    このまま選挙に臨めば壊滅必至だった民進党にしてみても、渡りに船という見方もできる。

    しかし、現状、最大の一致点は「反安倍政権」だ。

    野党が政権を批判するのは当然だが、内実は「勢い」頼みの政権奪取構想までしかない。

    しかも、その旗を振っているのは、少し前まで自民党の要職に就き、自民党政権に深く関わった小池さんだ。

    小池さんと希望の党に集った議員たちと政策を共有するにしても、それなりの時間が必要だろう。

    華々しい新党立ち上げで、イメージに訴え、「反〜〜政権」「反〜〜」と作り上げ、勢いでのし上がる。

    仮に安倍政権を終わらせたとして、(短い)「風」に吹かれて……。高揚感の先に待っているものは何だろうか。

    うまくいっている時はいい。しかし、少しでも勢いが落ちると、途端に主導権争いが始まる。いつも繰り返されてきた光景だ。

    時折、柔らかい笑みも浮かべながら、きっちり1時間の会見を終えた、前原さんは深々と頭を下げて、すっと会見場を後にする。

    顔にはどこか安堵感が浮かんでいた。

    そして、解散総選挙を見据え、急ごしらえで作られた「All for All」のボードだけが残る。

    民進党の目玉政策を訴えるボードが使われることはもうないだろう。

    これが「名を捨て、実を取る」ことを選んだ、かつての政権与党の姿を象徴していた。