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産経新聞の報道はミスリード 「沖縄県が観光収入を過大発表 基地の恩恵少なく見せ、反米に利用か」を検証

改めて報道内容をチェックした。

米軍機関係の事故やトラブルが相次いでいる沖縄。そこに集中する基地の問題に関連し、産経新聞が1月4日、沖縄県が観光収入を過大発表 基地の恩恵少なく見せ、反米に利用かという記事を配信した。

「県が米軍基地の関連収入を少なく見せるため、観光収入を過大発表している」という内容で、記事は広く拡散。これを根拠に「沖縄県は嘘をついている」などと批判する声も大きくなっている。

ただ、この記事は少なくともミスリードだ。この資料は、基地の恩恵を少なく見せるために作られたものでも、反米に利用するためのものでもない。全く違う文脈で作られている2つの資料を混同させる書き方をしている。

BuzzFeed Newsは、改めて産経新聞の報道内容をチェックした。

産経新聞が問題視したのは、沖縄県が「県民経済計算」という全国の都道府県が作る資料に添付した「参考資料」だ。

この参考資料に記載されていた「観光収入」に、収入にかかる経費などを計上したままで算定し、数字が大きくなっていると指摘した。

さらに記事では、観光収入の数字を大きく見せ、その数字を基地収入と比較することで、基地収入が少ないように見せる意図があると説明している。

沖縄県の翁長雄志知事は講演やBuzzFeed Newsの取材などで「米軍基地は沖縄の経済発展の最大の阻害要因」と説明している。

産経新聞はこれらの説明の中で、数字を大きく見せた観光収入のデータが引用されていると指摘し、「米軍基地反対運動の材料にも利用されている」と述べている。

具体的には、以下のような文言だ。

沖縄県が県民経済計算の参考資料で、観光収入を過大計上していることが3日、分かった。異なる基準で計算して基地収入と比較し、結果的に「反基地」「脱基地」の県政に沿う形で、観光収入を大きく見せかけていた。県民経済計算は売上高などから経費を除いたいわゆる利益部分を公表するが、同県の観光収入は売上高をそのまま公表。統計上欠陥がある状態で米軍基地反対運動の材料にも利用されている。

沖縄県は翁長雄志知事が講演や記者会見で、観光収入を引用して経済の基地依存の低下を強調し、「沖縄経済の最大の阻害要因は米軍基地」との主張を展開。地元2紙や基地反対派による「沖縄経済が基地に依存しているというのは誤り」とするキャンペーンや、運動の材料になっている。

計測ツール「Buzzsumo」を利用して調べたところ、この記事はFacebookやTwitterで7000以上シェアされている。Yahoo! Japanのトップにも掲載された。

記事は「アノニマスポスト」などのまとめサイトによって【沖縄県が観光収入を過大に計上 基地の恩恵少なく見せ、反米に利用か~ネットの反応「パヨクといえばウソ捏造、ウソ捏造といえばパヨク」】などと引用され、さらに拡散。

SNS上には「沖縄経済は基地なしでは崩壊する」「沖縄県は嘘をついている」などという批判の書き込みが並んだ。

しかし、産経新聞の記事は正確とは言えない。翁長知事が沖縄経済の米軍基地への依存度の低下を示す際に使う資料は産経新聞が指摘した「参考資料」とは全く別のものだ。

そして、この参考資料は、基地の恩恵を少なく見せるために作られたものでも、反米に利用するためのものでもない。ポイントを4つにまとめて解説する。

1. 基地依存度の低下を示すのは全く別の統計データ

そもそも、県が「経済の基地依存が下がっている」根拠として示しているのは、上記のグラフで使われている数字。県民総所得に対する基地関連収入の割合だ。

アメリカ統治下の1965年で30.4%。1972年の本土復帰時に15.5%。その後も下がり続け、1990年代以降は5%台になっている。

「米軍基地が沖縄経済を支えている」とはとても言えない。翁長雄志知事も、これらのデータを元に「米軍基地は経済発展の最大の阻害要因」と主張している。

県統計課によると、「県民総所得」は国の算定基準に基づき、経費などの「中間投入額」も控除されている数字だという。

つまり、産経新聞の指摘は、県民総所得に占める基地関連収入は5%しかないという統計的事実とは全く関係がないものだ。

2. 参考資料は「基地と観光」の比較目的ではなく、1973年度から作成されているものだ

産経新聞は「参考資料で県側が観光収入と基地収入を比較している」と主張している。だが、具体的にどのように比較しているかは記述していない。

県によると、参考資料は1973年度から作成されている。翁長知事の「米軍基地は経済発展の阻害要因」という主張とはそもそも関係ないものだ。

では、なんのために作られているのか。

この資料には、観光収入や基地収入以外にも、国庫からの経常移転や石油製品の受け取りなどの数字が並べられている。つまり、「県外からどれだけの収入があるか(県外受取)」を示すためのものだ。

観光収入は、観光課がアンケート調査を元に、観光客一人あたりの県内消費額を出し、そこに人数をかけて作成している。

公開されている資料には「統計課以外の機関が作成した数値も掲載しておりますので、ご利用にあたってはご注意下さい」と記されている。また、推計方法の欄にも「県民経済計算の概念を考慮した数値ではない」と書かれている。

県統計課は、参考資料は「あくまで県外から沖縄に入ってくるお金を例示しているもの」とし、「基地負担や経済の基地依存を示す根拠として使用しているものではありません」と説明する。

県基地対策課も「恣意的に基地容認、基地反対の意図を示すものではありません」と回答した。

BuzzFeed Newsが翁長知事に2017年12月にインタビューした際も、この参考資料に記載されている観光収入が触れられることはなかった。基地依存度の低下を示すデータとして示されたのは(1)のデータだ。

3. 国からの指摘はなかった

産経新聞は記事中で、「沖縄振興に関わる政府関係者」による以下のコメントを掲載した。

「基準の異なる数字を比較材料として使うのは、統計上重大な欠陥」と指摘し、政府の沖縄振興策の適切な執行のためにも、早急な改善を求めている。

政府から重要な指標についての改善を求められているのであれば、県側が把握しているはずだ。ただ、県基地対策課は明確に否定した。

「このような指摘は聞いたことがありません」

4. 産経新聞からの事前取材はなかった

産経新聞はこの参考資料に掲載された観光収入は、基地依存の低下を強調するために引用されていると指摘している。

だが、記事中には沖縄県のコメントはなく、県の関係者に取材した形跡はない。唯一のコメントは「沖縄振興に関わる政府関係者」のものだが、(3)で指摘したようにこの政府関係者のコメントの内容を県は完全否定する。

産経新聞はどのような取材に基づいてこの記事を書いたのか。沖縄県に問い合わせたところ、県への取材はなかったという。これらの資料に直接関わる統計課、基地対策課いずれも取材はなかったと話す。

統計課の担当者は「以前からずっとやっているやり方で、こうした指摘は初めて。私どもとしても戸惑っている」と困惑している。

基地対策課は「マスコミ各社の個別記事に関する見解については控えさせていただきます」と前置きした上で、以下のようにBuzzFeed Newsに回答した。

「記事の中にあります、『沖縄経済が基地に依存しているというのは誤り』という表現については過去に知事の発言があったと思います」

「しかしながら、基地対策課においても産経新聞から事前の取材があったものではありませんので、記事における『比較』が何を指しているのかこちらで把握しているものではありません」

産経新聞が比較目的であると誤解した可能性はあるのだろうか。

その点については、「誤解を受ける可能性のものについて基地対策課で承知しているものではありません」としている。

産経新聞の見解は

BuzzFeed Newsは産経新聞に取材を申し込み、以下の5点の質問事項を送った。

  1. 県民経済計算の参考資料が、基地収入と観光収入を比較する目的であると報じた根拠を教えてください
  2. 沖縄県が「基地依存率の低下」の根拠としている「県民経済計算」では、中間投資は排除されていますが、なぜ記事ではその点に触れなかったのでしょうか
  3. 沖縄県は弊社の取材に対し、参考資料が2つの収入の「比較目的」であることを否定し、「恣意的に基地容認、基地反対の意図を示すものではない」としております。それに対する見解を教えてください
  4. 沖縄県は同様に、記事にありました「政府の沖縄振興策の適切な執行のためにも、早急な改善を求めている」ことについて、「このような指摘は聞いたことがない」と否定しております。それに対する見解を教えてください
  5. 沖縄県は産経新聞からの事前取材がなかったとしております。事実かどうか、事実であれば、なぜ事前取材をしなかったのかを教えてください。

産経新聞からは、1日後に「個別の記事や取材に関することにはお答えしておりません」との回答が届いたのみだった。


BuzzFeed Newsでは、知事へのインタビュー記事【「沖縄は基地で食っている」はデマ 翁長知事「むしろ経済発展の最大の阻害要因」】も配信しています。