YouTubeビデオの過激化をあおる「スパチャ」、“投げ銭”が差別主義者の資金源に

    YouTubeで配信されたあるライブ番組において、国家社会主義者と名乗る視聴者が「白人の誇りを世界に示せ!」というメッセージを表示するために100ドル支払った。

    クライング・ナチ」として知られる白人至上主義者のクリストファー・キャントウェル氏は4月終わりに、運営者のアンディ・ワルスキー氏が登録者数27万5000人弱と豪語するYouTubeチャンネルに登場した。

    キャントウェル氏が出演したのは、米国内で白人だけの国家をどうやって興すかについて語るためだった。そのライブ配信中、「ヒトラーはすべて正しかった」というハンドルのユーザーが同氏に質問をしようと、YouTubeの有料コメント投稿システム「スーパーチャット」経由で5ドル支払った。

    視聴者が知りたがったのは、仮に白人国家が存在するとしたら、密入国者はどのような扱いを受けるのか、ということである。キャントウェル氏はこの問いに対し、許可なく国境を越えたら、必ず「ヤバイ“木こり”が待ち構えている」と答えた。

    この2時間にわたるライブ配信中、スーパーチャットで数十人が“投げ銭”をし、なかには500ドル出すユーザーまで現れた。

    配信のなかでキャントウェル氏は、「お前ら、もっと俺を馬鹿にしてみろよ。今夜は稼ぎになるぞ」と口にした。

    有名な極右と白人至上主義者たちは、金の力で自分たちの声を届けようとする人種差別主義のコメント投稿者を呼び寄せる結果、ここ数カ月間、こうしたYouTubeチャンネルに数千ドルの収入をもたらしてきたのだ。

    白人至上主義者のリチャード・スペンサー氏とマイク・イーノック氏の出演した最近のビデオ2本をBuzzFeed Newsが調べたところ、合計4000ドル超の売上があったと判明した。ここからYouTubeが上前をはねるのだが、具体的な金額は回答してもらえなかった。

    スーパーチャットで5ドル払ったユーザーは、「黒人化したら、社会は白人の手に取り戻せない。これが事実だ」とコメントした。

    20デンマーククローネ(約340円)払った別のユーザーは、「この嘘つきユダヤ人を黙らせないと駄目だ #GasKikes」と書いた(訳注:#GasKikesというハッシュタグは、「ユダヤ人をガス室送りにしろ」という意味)。

    さらに、国家社会主義者と名乗るユーザーは、100ドルで「白人の誇りを世界に示せ!」と書いた。

    BuzzFeed Newsは、白人至上主義者の関係するライブ配信番組をリストにまとめ、YouTubeへ示してみた。するとYouTubeは、スーパーチャット経由で投稿されたコメントの一部がヘイトスピーチに当たると認め、スーパーチャットの利用許可と規則適用に関する方針を見直す、と回答した。

    「YouTubeは、暴力の増長につながるヘイトコンテンツを許しません。BuzzFeedのリストに掲載されたライブ配信番組を改めて精査した結果、配信そのものはヘイトスピーチに該当しないと判断しました。ただし、スーパーチャットで投稿されたコメントはヘイトスピーチでした」(YouTubeの広報担当者)

    さらに、YouTubeは「スーパーチャットは比較的新しい機能で、まだ金額は多くないものの、クリエイターによっては拡大してゆく収入源となります。こうした極端な事例に鑑みて、ポリシーを再検討していきます」と付け加えた。

    インターネット最大のビデオ配信プラットフォームであるYouTubeにとって、人種差別とヘイトスピーチを広め、それを収入源にする道具としてスーパーチャットが利用されることは、新たに問題化したコンテンツ管理上の頭痛である。これまでもYouTubeは、児童からの搾取過激主義の拡大、非道行為の描写、陰謀論の流布といったビデオ配信のせいで、非難を浴びてきた。

    YouTubeは、ビデオクリエイターがライブ配信番組でファンと交流し、追加収入を得るための手段として、2017年1月にスーパーチャット機能の提供を開始した。ところが、新たに導入される交流およびマネタイズ機能の例に洩れず、スーパーチャットはYouTubeが望みも考えもしない方法で利用されてしまった。

    こうしたライブ配信番組を追いかけている、ある研究者はBuzzFeed Newsに対し、スーパーチャットは、枠からはみ出すことばかり考えている層に金銭的な報酬を与えることで、YouTube上での過激派コンテンツ拡大を後押ししている、と話した。そして、極端な白人至上主義者の見解を、それまで触れることのなかった大勢へ広めている、という。

    「配信とお手軽な収益化を組み合わせれば、行動パターンは過激な方にばかり進んでいく」(新技術の社会的影響について調査しているシンクタンク、Data & Societyの研究者であるジョアン・ドノバン氏)

    ドノバン氏によると、コンテンツを節度ある内容に保つ目的でYouTubeが用意している管理ツールは、ポルノのようなコンテンツの検出に適しており、何時間にもわたるライブ配信や、それに伴うライブチャットの監視には力不足だという。

    スーパーチャットの持つ力がもっとも目立つ場所は、動物同士や動物対人間で流血沙汰になる戦いを余興として楽しむ“ブラッドスポーツ”になぞらえ、「インターネット・ブラッドスポーツ」と称されるライブ配信ディベート番組の増加である。

    激しい議論になるディベートの多くは、自称コメディアンのワルスキー氏や、ベイクド・アラスカという呼び名で知られる、親トランプ派インターネット荒し屋のティム・ギオネット氏が配信している。

    ワルスキー氏は、当初BuzzFeed Newsの取材に応じるとしていたが、その後連絡を絶ってしまった。そして、同氏はBuzzFeed Newsのインタビューを受けるべきかどうかをライブ配信番組で取り上げ、インタビュアーに無断で配信することを検討した。数年前にBuzzFeedで一時勤務していた経験のあるギオネット氏は、インタビューの求めに返信していない。

    理論上はあらゆる観点の人々に開かれているはずなのだが、このようなライブ配信番組の参加者は政治的右翼や極右が圧倒的に多く、米国で活動する特に著名な白人至上主義者も一部参加している。その結果、討論の内容は必然的に人種科学や白人の独自性、「ユダヤ人問題」と呼ばれる話題などへ集中してしまう。そして、番組の配信者に何千ドルもの収入をもたらす。

    ワルスキー氏のライブ配信で1月に大成功を収めたディベート番組があった。スペンサー氏に加え、白人国家主義の素晴らしさを説く保守的なユーチューバー2名が出演したこの番組は、YouTube全体の注目ビデオNo.1になり、再生回数は50万回弱に及んだ。

    さらに、この番組は儲けも生み出した。BuzzFeed Newsの調べでは、スペンサー氏の討論により、ワルスキー氏のチャンネルはスーパーチャット経由で2200ドル以上の投げ銭を獲得した。

    ネオナチ系ポッドキャスト番組「The Daily Shoah」の配信者であるMike Enoch氏を取り上げた別のディベートは、ユダヤ人によるメディアと政治のコントロールは米国を弱体化させているのか、というテーマで進められた。こちらはスーパーチャットで1800ドル以上集め、「ユダヤ野郎が憎くて眠れないときがある」というコメントまで投稿された。

    スペンサー氏、イーノック氏、キャントウェル氏だけでなく、名の知られた多くの白人至上主義者がこの数カ月間、ブラッドスポーツ的なライブ配信番組を手がけてきた。

    例えば、白人至上主義の雑誌「American Renaissance」を創刊したジャレド・テイラー氏、ネオナチ系ウェブサイトの「Daily Stormer」を立ち上げたアンドリュー・アングリン氏、「ミレニアルの苦悩」という名で知られ、白人至上主義イベントで講演したスコットランド系白人至上主義ユーチューバーのコリン・ロバートソン氏、白人至上主義系ウェブサイト「Counter-Currents」編集者のグレッグ・ジョンソン氏といった面々だ。

    ワルスキー氏のライブ配信番組で行われたディベートには、カナダのケベックを拠点に活動し、同氏と番組を共同運営している白人至上主義者のジャン-フランソワ・ギャリエピー氏も数多く登場している。

    ライブ配信番組には、ディベートを行うものもあるが、長時間インタビューを流す番組や、配信者が何人も出入りしつつ何時間も好き勝手に雑談だけする番組もある。

    週に何回もスーパーチャット対応ライブ配信をやるYouTubeチャンネルは複数存在し、意見を表明したい視聴者や、自分の偏見を配信者に読み上げてもらいたいだけの人々から投げ銭を受け取っている。

    こうした際の支払額は、ネオナチや白人至上主義のスローガンとして使われる差別的な隠語である「1488」にちなみ、14.88ドルであることが一般的だ。

    ブラッドスポーツ的な討論場面は、一番盛り上がった場面を切り取って配信するほかのYouTubeチャンネルや、ブラッドスポーツ情報を発信するウェブサイトTwitterアカウントを通じ、さらに広まった。そのうえ、さまざまな出演者と番組が、うわさ話やミームと呼ばれる拡散性の高いコンテンツを積極的にやり取りする大きなコミュニティを、極右から人気のオンライン掲示板「Discord」に持っている。


    Twitchなどほかのストリーミング配信サービスにも有料コメントシステムは存在するが、YouTubeの規模は比べものにならないほど大きい。そして、過激なコンテンツほど高い売上を記録することから、ビデオ邪悪化に拍車がかかる悪循環へと陥るリスクも高い。この問題は、スーパーチャット導入直後から複数の人が予測していた。例えば、ニュースメディアThe Vergeのブラド・サボブ氏は、アダルト番組を自ら配信する「camgirl」のビジネスモデルを引き合いに出して論じた。

    「つまらない歪んだ妄想に誰かを付き合わせようと金を払えば、あらゆる面で品位を失う結果に至るのが一般的だ」(サボブ氏が2017年3月に書いた記事

    こうしたライブ配信番組の周囲で生まれたエコシステムは、トーク番組の細やかさと取り組んで来た専門家による、発言が行為と直接結びつくような個人間で起きるドラマを、匿名掲示板「4chan」で使われる人種差別主義者、反ユダヤ、反同性愛に関するボキャブラリと融合させている。そして、この融合には、白人至上主義者に効果を発揮する価値がある。

    先ごろCounter-Currentsのあるライターが、より右翼的な方向へ「(世間に受け入れられる政治的見解の範囲を規定する概念である)『オヴァートンの窓』をずらす」として、ブラッドスポーツ的なディベートを称賛した。

    「白人至上主義者は、見事YouTubeの片隅に植民地を作り、一般人と遭遇した。仲間内だけで意見を強めるエコーチェンバーから外界へ踏み出し、インターネットに広がる豊かな地域に進出する過程で、頑固者(市民国家主義)や信頼できない自由至上主義者(リバタリアン)と闘うことになった」(Counter-Currentsのライター)

    「唐突に、自由主義者(リベラル)とリバタリアンが人種実在論と民族国家を話題にし始めた」(同上)

    ユーチューバーのなかには、ブラッドスポーツのやり方を現実世界のやり取りに持ち込む人もいる。ワルスキー氏とギオネット氏は3月、「IRL(現実生活)ブラッドスポーツ」のエイジャン・アンディとして知られる別のライブ配信者とともにロサンゼルス周辺をドライブし、5ドル以上出した視聴者からのコメントをテキスト自動音声合成で流しながらライブ配信した。この番組では、開始からわずか数分で黒人に対する差別用語が飛び出した。

    YouTubeはBuzzFeed Newsに対し、YouTubeコミュニティのガイドラインでは、ヘイトスピーチ、ハラスメント、そのほかの禁止行為をチャットおよびビデオのコンテンツとすることを禁じており、不適切なコメントは視聴者が通報できる、とした。

    チャンネルの運営者は、チャット監視者を増員し、特定の単語や表現を禁止し、チャットを完全に停止させることができるそうだ。YouTubeは、「YouTubeコミュニティに広く害を及ぼす」コンテンツに対する姿勢を強化するとした2月の発表にも触れた。

    ドノバン氏は、ヘイトコメントに対する規制が徐々に視聴者の正常化へつながる、と述べた。「笑いを取るための、コミカルな愉快で陽気な手段」として始まったはずのものが、繰り返されることで「ユーモアを失い、自己評価システムの一部へ変化し始める」という。

    「こうした事態について、そのイデオロギー自体が真面目だと限らないし、人々がこうした考えを必ずしも深刻に受け取らないと、我々はやっと理解し始めた。このような思想に出会う人が増え、ほんの少ししか反論できないと、そうした人々で構成されるコミュニティを通じ、受け入れ可能で適切な考えであると信じ始めてしまう」(ドノバン氏)


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan

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